HbA1cから一歩進んで食後高血糖にも注目

緩徐進行性1型糖尿病と診断された筆者のインスリン療法の内容は、多くの1型のそれとは少し異なります。

  • 2007年10月から食前3回の追加インスリン注射を開始
  • 2008年9月頃から肩関節周囲炎によるものと思われる血糖コントロール悪化
  • 2008年11月から就寝前の基礎インスリン注射を追加

食前3回注射の時期のHbA1cおよび食前血糖値は、悪い値ではなかったですが、朝食後血糖値のほとんどが200~300[mg/dl]を記録していて、動脈硬化が70歳代老人並みの検査結果だったこともあり、何とかならないものかと思っていました。

  • 2009年5月から朝食前および夕食前にα-グルコシダーゼ阻害薬を服用

食後の急激な血糖上昇を抑えるα-グルコシダーゼ阻害薬は、糖質をグルコースに分解する酵素に作用してグルコースの吸収を遅らせる薬ですので、小腸から吸収されるグルコースに血中への「入場制限」がかけられます。

このような薬剤以外で、食後高血糖を抑えるにはどうすればよいのかを考えてみました。

膵β細胞からインスリンが分泌される仕組み

膵臓β細胞を刺激してインスリンを分泌させる物質や因子にはいろいろあって、グルコースはその代表です。

インスリン分泌刺激物質であるグルコースによってインスリンが分泌される仕組みを列挙します。

  1. 糖輸送担体GLUT2という膜タンパクを介し、グルコースが膵β細胞に取り込まれる。
  2. グルコースは、酵素グルコキナーゼによりグルコース6リン酸 (G6P) へ変換される。
  3. G6Pから解糖系によってATPが産生される。
  4. また、ミトコンドリアにおいてTCAサイクルで代謝後、酸化的リン酸化されATPが産生される。
  5. 細胞内ATP濃度が増加するとATP/ADP比が上昇し、その結果、ATP依存性K+チャネル (KATPチャネル) が閉鎖する。
  6. KATPチャネルが閉鎖した結果、細胞膜が脱分極する。
  7. その結果、電位依存性Ca2+チャネル (VDCC) が開口し、膵β細胞内へCa2+が流入する。
  8. 急速な細胞内Ca2+濃度上昇が、インスリン分泌顆粒の細胞外への開口放出を引き起こす。
  9. 放出されたインスリンは、膵ランゲルハンス島に存在する毛細血管を通じて全身に運ばれる。

図1.:膵β細胞においてインスリンが分泌されるまでのシグナル伝達経路は、次のとおりです。グルコースがグルコース輸送担体(GLUT2)により膵β細胞内に取り込まれます。取り込まれたグルコースは酵素グルコキナーゼによりグルコース 6-リン酸となり、解糖系→TCA回路→電子伝達系と代謝されます。代謝中間産物としてATPが産生されることによりATP/ADP比が上昇→ATP感受性K+チャネルの開口率低下→細胞外へのK+排出抑制→細胞内のK+濃度上昇→細胞膜電位上昇→電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+が細胞内へ流入→Ca2+流入刺激によりインスリン顆粒が細胞膜に移動→細胞外へインスリンが放出されます。

なぜ細胞内のC2+濃度が上昇すると膵β細胞からインスリン分泌が起こるのか、機序の詳細はよく分かっていませんけれども、グルコースが膵β細胞に取り込まれるとインスリンが分泌される、という現象は確認されています。

インスリン分泌動態

インスリン分泌動態は、インスリン分泌量とその分泌パターンのふたつを併せ見たもののことで、横軸に時間、縦軸に血中インスリン濃度を適用したグラフなどで表現することができます。(糖尿病の早期発見・早期治療のためにの図11.「2型糖尿病の遺伝表現型としてのインスリン分泌動態と血糖応答」を参照)

2型糖尿病においては、インスリン分泌遅延により食後高血糖が引き起こされるということを見聞きします。

分泌遅延という言葉からは、食事を摂ってから30分後くらいにやっとインスリンが分泌されるような感じを受けますが、上記サイトの図11.を見ると、インスリンが分泌されるタイミングは、正常人も糖尿病患者もほぼ同じと言えそうです。

正常人と糖尿病患者のインスリン分泌動態の大きな違いは、摂食後に血中グルコース濃度の急上昇に合わせて瞬時にかつ十分な量のインスリンが分泌されるかどうかです。

インスリン分泌パターンを山に例えるならば、正常人は急峻な山、糖尿病患者はなだらかでだらだらと続く山です。

筆者のような緩徐進行性1型糖尿病患者は、自己免疫を基礎にした膵β細胞の破壊性病変により細胞数が減少しているために貯蔵できるインスリン顆粒が少なく、グルコースに反応して瞬時にインスリンを放出したとしても、インスリン分泌動態は、なだらかな山状になると思われます。

その間にも、小腸から吸収されたグルコースは次から次へ勢いよく血中に流入し、少ないインスリン分泌量では短時間に多くのグルコースを処理することは困難です。

その結果、処理待ちの血中グルコースが増加します。これが食後高血糖の中身のひとつです。機能障害を起こした2型糖尿病の膵β細胞も、同様の状態と思われます。

一方、肝臓は「グルコース内分泌器官」とも言われ、グリコーゲン分解および糖新生により血中にグルコースを放出します。

糖尿病の早期発見・早期治療のためにの図12. 健常人と2型糖尿病患者における「糖のながれ」において、上から二番目の「肝糖放出率のグラフ」を見ると、健常人の肝臓は、食後のグルコース取り込み期間を除いてグルコースを放出し続けています。

グルコースを過剰放出しないように抑制しているのはインスリンで、この基礎インスリン分泌が不足すると空腹時血糖値が上昇します。

食後は、追加インスリンの分泌がグルコース放出をさらに抑制することになり、グリコーゲン分解および糖新生は停止してグルコースは放出されなくなります。

グルコース放出を停止させるためには、ある閾値以上の多くのインスリン(追加分泌インスリン)が必要なようです。

通常、脳はグルコースをエネルギー源としていることから見れば、多くのインスリンが分泌されたことは血中グルコース濃度が十分に高くなっていることですので、グルコース放出を停止しても安全であると考えられます。

追加インスリンの分泌が、ある閾値に至るまでの時間が長くかかってしまう糖尿病患者にとって、グルコース放出の停止が遅れることも食後高血糖に加担します。

インスリン分泌遅延は、インスリン分泌パターンのピークが時間的に遅れたところにあり、かつインスリン分泌量不足によりそのピークが低い状態のことを言うのだと思います。

インスリン分泌遅延の結果、血糖応答は食後高血糖、その後だらだらと下がっていき、十分時間が経過したときには正常域にあります。

一部の人は、食後高血糖に反応したことによるインスリンの過剰分泌が予想外の低血糖をもたらします。

食後高血糖を改善するためにできること

結局、インスリン分泌動態が崩れているから血糖応答が悪くなる訳で、肝臓のグルコース放出・グルコース取り込み、筋・脂肪組織でのグルコース取り込み、すべてがインスリン作用に依存しているので、インスリン分泌パターンによってそれらの「仕事ぶり」が変わってきます。

したがって、以下の3項目が食後高血糖を改善することになると思われます。

  1. インスリン分泌パターンを正常人のそれに近づける
  2. 食後血糖上昇カーブをインスリン分泌パターンに近づける
  3. 上記1.と2.の両方

具体的には、次の2つが有効です。

  • 食後血糖値の改善をターゲットとしている薬剤の使用
  • グリセミック負荷の低い食事の摂取

食後血糖を低下させる薬剤

1型糖尿病は、使用できる薬剤の中で最も強力なインスリン療法が治療の基本です。

その他薬剤は、α-グルコシダーゼ阻害薬が使用できる以外、適応外使用となります。

α-グルコシダーゼ阻害薬

α-グルコシダーゼ阻害薬は、二糖類およびより複雑な炭水化物の分解反応を触媒する酵素に対して親和性が強く、糖質の構造に似ている物質です。

炭水化物を分解する酵素にα-グルコシダーゼ阻害薬がより結びつきやすいので、この酵素の働きが阻害されることにより炭水化物の吸収が遅れ、血糖の上昇が抑えられます。[前述のリスト項目2.に該当]

DPP-4阻害薬

グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)などのインクレチンは、食後に消化管から分泌されます。

インクレチンは、グルコース濃度依存的に膵β細胞からのインスリン分泌を促進および膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制して、血糖値を低下させる働きをする消化管ホルモンです。

分泌されたGLP-1やGIPは、酵素DPP-4により速やかに分解され、インスリン分泌を刺激する作用を失います。

DPP-4阻害薬は、酵素DPP-4を阻害することにより、GLP-1が分解されて活性を失うことを遅らせます。

GLP-1のシグナルは、膵β細胞のインスリン分泌メカニズムにおいて、Ca2+流入刺激によるインスリン分泌顆粒の細胞外への開口放出を増強します(図1.参照)。

膵β細胞のインスリン分泌は、刺激物質であるグルコースの血中濃度依存的に惹起されるため、GLP-1のインスリン分泌増強作用は食後の血糖が上昇するときに認められ、空腹時の正常血糖状態では認められません。[前述のリスト項目1.に該当]

GLP-1受容体作動薬

GLP-1受容体作動薬は、血中で分解されにくいGLP-1アナログ(analog;類似物質)で、膵β細胞上のGLP-1受容体に結合してインスリン分泌を増強します。

2型糖尿病患者ではGLP-1の分泌は低下しているとされ、大きな血糖低下作用が期待できます。[前述のリスト項目1.に該当]

速効型インスリン分泌促進薬

メグリチニド系は、膵β細胞上のスルホニル尿素受容体(SUR1)に結合してATP依存性K+チャネルを閉鎖することにより、細胞膜の脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口し、細胞内Ca2+濃度を上昇させることによってインスリン分泌を促進します(図1.参照)。

代謝半減期がとても短く、食直前に服用すると食後早期のインスリン追加分泌が促進され、食後血糖値の急激な上昇を緩和し、食後数時間でインスリン分泌量は減少します。[前述のリスト項目1.に該当]

グリセミック負荷の低い食事の摂取

経口ブドウ糖負荷試験は、グルコース75[g]相当溶液を5分以内で経口摂取して、決められた経過時間毎に採血および血糖値を測定し、血液中からグルコースがどれほど速く処理されるのかを調べる検査です。

得られた血糖値の変化は、被験者のインスリン分泌動態を反映します。

構成成分のひとつがグルコースである炭水化物は、摂取後の血糖値を上昇させます。

たとえば、炭水化物75[g]を含む食品を摂取後、経口ブドウ糖負荷試験と同じように血糖値を測定し、グルコース75[g]摂取後の血糖値増加分の血糖値上昇曲線下面積を100として相対比較すれば、その炭水化物がどの程度血糖値上昇に寄与するかを示すことができます。

グリセミック指数(Glycaemic Index : GI)は、グルコース50[g]摂取後の血糖値上昇曲線を基準として、炭水化物50[g]を含む食品の血糖値上昇度合いを基準と相対比較して、炭水化物食品を分類する方法です。

参照基準が白パンや米飯の場合もあります。

  • 低GI食品(GI<55):全粒穀物、豆類、ほとんどの野菜や果物、きのこ類、[フルクトース]
  • 中GI食品(56<GI<69):全粒粉製品、さつまいも、バナナ、[スクロース=フルクトース+グルコース]
  • 高GI食品(70<GI):白米、白パン、じゃがいも、[グルコース]

低GI食品は、豆類のように緩徐に消化・吸収されるデンプンを含むか、ほとんどの野菜やきのこ類のように糖質が少ないか、果物のように糖質が多くてもそのほとんどは血糖値に影響を及ぼしにくいフルクトースです。

また、脂肪や可溶性食物繊維の存在は、胃排出時間を遅くしますので、消化・吸収を緩徐にします。

高GI食品の白米は、脂肪や食物繊維を多く含む糠の部分を除去(精白)した穀物であり、白パンは精白した小麦粉を使います。現代的なデンプン食品のほとんどは、比較的高いGIを示します。

GIによる食品選択は、白米の一部をより血糖値上昇度合いの低い玄米に入れ換えて摂取する、というような例で有効です。

また、低GI食品だからといって大量摂取すれば血糖値は高くなりますし、高GI食品でも摂取量が少なければ食後血糖への影響は小さいです。

そこで、食品に含まれる炭水化物量が摂取後にどの程度血糖値を上昇させるかを推定する値が、グリセミック負荷(Glycemic Load:GL)です。

  • 食品のグリセミック負荷GL=(グリセミック指数GI÷100)×食品に含まれる炭水化物のグラム数

GIがベースとなっていますから、GLが「1」の食品は、グルコース1[g]を摂取したときの血糖値上昇度合いに近いと考えられますが、その度合いは糖尿病患者毎に異なります。

GIの基準となるグルコース50[g]摂取後の血糖値上昇曲線は、耐糖能を表していることと同じですので当然です。また、食後血糖の上昇速度やピーク値にどう影響するのかを正確に汲み取ることもできません。

グリセミック負荷の低い食事は、GLの定義からもわかるように、従来の食事からグリセミック指数が低い食品に入れ替えたり、炭水化物の量を減らすことにより実現できます。

「炭水化物の量を減らす」の意味は、炭水化物を摂らないことではなく、炭水化物を食べ過ぎないことです。