インスリン強化療法は合併症発症リスクを抑制

「糖尿病の大規模臨床研究 DCCT」の研究報告によると、従来療法と比較して一次予防群の強化療法の合併症発症リスクは、全てにおいて抑えられていました。

  • 網膜症の発症リスク : 76[%]低下
  • 腎症第2期の発症リスク : 34[%]低下
  • 神経障害の発症リスク : 69[%]低下

今では当然の事と思われている結果ですけれども、DCCTの研究報告があったのは1993年、僅か15年前のことなのです。現在行なっている治療が、実は既に世界の医療事情から遅れているものだとしたら……、それは不幸なことです。

この研究報告を受けて、日本における血糖コントロール目標がいつどのように変更されたのかは糖尿病歴が短い筆者にはわかりませんが、少しでも英語が読めるのであればウェブ上の多くの新しい情報に接することができます。

網膜症の累積発症率の比較

  • Figure 2. 一次予防群の網膜症の累積発症率の推移 Panel A(左のグラフ)を参照
  • 縦軸:患者数の割合、横軸:研究期間
  • ■:従来療法、◆:強化療法
  • 下段数字:研究期間の3、5、7、9年次における従来および強化療法群の患者数

最初の36ヶ月(3年間)は、従来療法、強化療法ともに網膜症の累積発症率は同じでした。

しかし、3年を過ぎたころからその差が広がっていきました。最終的に平均6年間の追跡調査を行なった結果、強化療法群378人中23人に、従来療法群348人中91人に網膜症の発症が確認されました。

強化療法は、「従来療法と比較して網膜症の発症リスクは76[%]低下した」と言えます。

仮に強化療法群が従来療法群と同じ348人だとすると、強化療法群から網膜症を発症する数は21人で、91-21=70人が発症を免れた、つまり(70/91)×100≒76[%]の人は発症しなかったであろう、と推定されます。統計的には、95[%]の確かさで62~85[%]発症リスクが低減されると考えられます。

強化療法のHbA1c(NGSP)分布の中央値は7.0[%]、HbA1c(JDS)換算で6.6[%]ですから、HbA1c(NGSP)6[%]以下、HbA1c (JDS) 換算で5.6[%]以下を維持することができれば、網膜症の発症リスクはとても低くなると思われます。

腎症の累積発症率の比較

  • Figure 3. 一次予防群の糖尿病性腎症第2期の累積発症率の推移 Panel A(左のグラフ)を参照
  • 縦軸:患者数の割合、横軸:研究期間
  • ■実線:従来療法の微量アルブミン尿(24時間尿中アルブミン排泄量が40[mg]以上)
  • ■破線:従来療法のアルブミン尿(24時間尿中アルブミン排泄量が300[mg]以上)
  • ◆実線:強化療法の微量アルブミン尿(24時間尿中アルブミン排泄量が40[mg]以上)
  • ◆破線:強化療法のアルブミン尿(24時間尿中アルブミン排泄量が300[mg]以上)

一次予防群において強化療法は、「従来療法より微量アルブミン尿と認められるリスクは34[%]減少」しました。 また、アルブミン尿まで進行した人は、強化療法、従来療法ともに僅かにいましたけれども、発症率に統計的な差は認められませんでした。

微量アルブミン尿が認められると、腎症の第2期と診断されます。第2期に限り、血糖と血圧のコントロールにより腎症第1期へ改善することができます。

筆者は2008年3月と4月に蛋白尿が認められたため、5月に尿中アルブミン(クレアチニン換算値)の検査を行ないました。30[mg/gCr]以下が正常値、すなわち糖尿病性腎症の第1期の状態です。

神経障害の発症率の比較

Figure 4.左から、神経障害の臨床的な症状、自律神経障害、神経伝達速度異常の各障害の研究開始から5年後の発症率を表わしています。結果は、「一次予防群において強化療法は、従来療法より発症リスクが69[%]減少」しました。