インスリン依存性グルコース取り込みの仕組み

インスリンを注射しなければ血糖値は下がる気配もみせない筆者にとって、血糖コントロールにインスリンは絶対必要です。

糖尿病と診断された2007年10月から2008年10月頃の1年間、基礎分泌くらいは、1型とはいえ緩徐進行性なので、自分の膵臓から分泌されるインスリンで賄えていました。

2008年11月以降は基礎インスリンの補充が必要になり、その補充量も僅かずつ増量傾向で、2010年12月現在で8[単位]ですので、基礎分泌の3分の2程度は賄えているのではないかと推測しています。

基礎インスリンの補充が必要になるほどインスリンの分泌量が低下すると、「あるもの」の影響が血糖値やHbA1cに如実に現れることを経験しています。

このことは、自分の膵臓から分泌するインスリンがいかに大切なものであるかを考えさせられたと同時に、1型も2型も糖尿病の発症機序が違うだけで、血糖コントロールのための原則に変わりは無いと感じました。

インスリン受容体シグナル伝達

インスリン作用は、肝臓や筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織を構成する細胞の細胞膜表面に露出しているインスリン受容体αサブユニットにインスリンが結合することから始まります。

そのシグナルは、特定のタンパク質がタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化して、活性を変化させることにより次々と伝達されていきます。

  1. 1. インスリンがインスリン受容体αサブユニットと結合
インスリン受容体の構造

細胞膜の脂質二重層に埋もれている状態で存在する。

  • αサブユニット:インスリンと結合する部位で、細胞外に向いている。
  • βサブユニット:キナーゼドメインを持ち、細胞質領域にある。
  1. 2. インスリン受容体βサブユニットがチロシンキナーゼとして活性化
チロシンキナーゼとは?

タンパク質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素のこと。

  1. 3. インスリン受容体が自身のチロシンキナーゼにより自己リン酸化
リン酸化とは?

タンパク質にリン酸基を付加させる化学反応のこと。

  1. 4. IRS-1がインスリン受容体のリン酸化部位に結合してリン酸化
IRS-1とは?

インスリン受容体基質 insulin receptor substrate 1 のこと。

  1. 5. リン酸化したIRS-1に結合したPI3Kが活性化
PI3Kとは?

酵素ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(phosphatidylinositol-3-kinase)のことで、ホスファチジルイノシトール(PI; phosphatidylinositol)のイノシトール環3位のヒドロキシル基のリン酸化を行う。

  • PIは、細胞膜の構成成分で細胞質側に存在。
  • PIがPIKの触媒作用によりリン酸化 → PIPやPIP2
    • PIのイノシトール環3位のリン酸化は、PI3Kが触媒。
    • PIのイノシトール環4位のリン酸化は、PI4Kが触媒。
    • PIのイノシトール環5位のリン酸化は、PI5Kが触媒。
PIPとは?

ホスファチジルイノシトールリン酸(phosphatidylinositol phosphate)のことで、PIにリン酸が1個結合した以下の分子が存在。

  • PI(3)P:ホスファチジルイノシトール-3-リン酸(phosphatidylinositol 3-phosphate)
  • PI(4)P:ホスファチジルイノシトール-4-リン酸(phosphatidylinositol 4-phosphate)
  • PI(5)P:ホスファチジルイノシトール-5-リン酸(phosphatidylinositol 5-phosphate)
PIP2とは?

ホスファチジルイノシトール二リン酸(phosphatidylinositol bisphosphate)のことで、PIにリン酸が2個結合した以下の分子が存在。

  • PI(3,4)P:ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸(phosphatidylinositol 3,4-bisphosphate)
  • PI(3,5)P:ホスファチジルイノシトール-3,5-二リン酸(phosphatidylinositol 3,5-bisphosphate)
  • PI(4,5)P:ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate)
  1. 6. PI(4,5)P2が活性化したPI3Kの触媒作用によりリン酸化 → PI(3,4,5)P3
PIP3とは?

ホスファチジルイノシトール三リン酸(phosphatidylinositol trisphosphate)のことで、PIにリン酸が3個結合した分子。

  • PI(3,4,5)P3:ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(phosphatidylinositol 3,4,5-trisphosphate)
  1. 7. PI(3,4,5)P3にAktが結合
Aktとは?

プロテインキナーゼB(PKB; protein kinase B)のこと。PI(3,4,5)P3と高親和性で結合するPHドメインを持つため、Aktが細胞膜に移動する。

  1. 8. AktはPDK1(phosphoinositide dependent kinase 1)とmTORC2(mammalian target of rapamycin complex 2)によりリン酸化され、タンパク質リン酸化酵素活性が活性化

Aktの下流には、タンパク質合成を促進する分子や糖代謝、脂質代謝、アポトーシス抑制を制御する分子が存在しています。

活性化したAktは、下流のキナーゼと転写因子をリン酸化することにより、インスリン作用のほとんどに関わりますので、インスリン受容体シグナル伝達(PI3K/Akt経路)のどこかにシグナルが弱くなる過程があると、インスリン作用が低下します。


インスリンが受容体に結合する前の段階の要因によってインスリンの受容体結合がうまく行なわれない場合として、インスリンまたは受容体の遺伝子異常やインスリン抗体の存在などが挙げられます。

単一遺伝子異常が原因の糖尿病は稀なので、これは除いて考えます。

また、超速効型や時効型インスリン注射薬は、ヒトインスリンであってもインスリンアナログですから、インスリン抗体ができる可能性は無いとは言えないですけれども、通常は起こらないものと考えてよいでしょう。

そうなると、インスリン作用の障害要因は、インスリンが受容体に結合した以降のシグナル伝達過程にありそうです。

肝臓のグルコース利用

食事を摂取してから肝臓にグルコースが届くまでの流れは次のようになります。

食事由来グルコースの肝臓への流れ
  1. 食事摂取(炭水化物など)
  2. 小腸において、炭水化物をグルコースなどの単糖にまで分解
    • 糖輸送担体によってグルコースを含む単糖を小腸上皮細胞に輸送
  3. 小腸上皮細胞から毛細血管へ
  4. 肝門脈
  5. 洞様毛細血管から肝臓へ

グルコース取り込み

肝細胞のグルコース取り込み
  1. 肝細胞膜
    • グルコースはGLUT2により受動輸送(促進拡散)されて細胞膜を透過
  2. 肝細胞膜内(細胞質)
    1. グルコース →[グルコキナーゼの触媒作用]→ グルコース-6-リン酸

細胞膜は、細胞膜外の水と細胞膜内の水を仕切ることができる、油のような薄い膜(リン脂質成分)であると言えます。

リン脂質には二つの部分があり、便宜的に一方を頭部、もう一方を尾部とすると、頭部は親水性のコリンやリン酸から成り、尾部は疎水性の炭化水素から成っています。

細胞膜の内側も外側も水ですから、親水性の頭部が水側を向くように尾部どうしが結合した二重の膜(脂質二重層)を形成しています。

水分子より大きくて親水性のグルコースは、自発的に細胞膜を通り抜けることができませんが、細胞膜にはグルコースを通すことができる膜タンパク質(=糖輸送担体、GLUT; glucose transporter)が存在します。

肝細胞において特徴的に発現している糖輸送担体はGLUT2であり、すべての細胞に発現していて「呼吸」を維持していくために必要な最低限のグルコース取り込みに関わるGLUT1に比べ、グルコースに対して低親和性です。

ここで、血糖値が70[mg/dl]、110[mg/dl]、140[mg/dl]のときに対応するモル濃度は、それぞれ3.9[mmol/L]、6.1[mmol/L]、7.8[mmol/L]であり、GLUT2のグルコースに対するKmは20~40[mmol/L]なので、単純に血中グルコース濃度に依存して肝細胞内にグルコースを取り込むことになります。

グリコーゲン合成

肝細胞のグリコーゲン合成
  1. 肝細胞膜内(細胞質)
    1. グルコース-6-リン酸 →ホスホグルコムターゼの触媒作用→ グルコース-1-リン酸
    2. グルコース-1-リン酸 →UDP(uridine diphosphate)グルコースピロホスホリラーゼの触媒作用→ UDP-グルコース(ウリジン2リン酸グルコース)
    3. UDP-グルコース → グリコーゲン
      • グリコーゲンシンターゼ(GS; glycogen synthase)の触媒作用によりUDP-グルコースのモノマーが連続的に結合し、鎖状のグリコーゲンが合成
      • GSは通常、活性化されたグリコーゲン合成酵素キナーゼβ(GSK3B; glycogen synthase kinase 3 beta)により抑制
      • GSK3Bが不活性化されると、GSはGSK3Bによる抑制が開放されて活性化
      • Akt/PKB経路では、GSK3Bをリン酸化して不活性化
    4. 1,4-α-グルカン分枝酵素により鎖状グリコーゲンに枝分かれが生じ、網目構造を形成

肝細胞に取り込まれたグルコースは、直ちにグルコース-6-リン酸となり、酵素の触媒作用によりグルコース-1-リン酸、UDP-グルコースと変化します。

UDP-グルコースは、グリコーゲンシンターゼ(GS)の触媒作用により重合しますけれども、GSはインスリンシグナル(Akt/PKB経路)により制御されています。

何らかの障害でインスリンシグナルが弱くなれば、グリコーゲン合成が滞ります。

グリコーゲン合成が滞ると肝細胞内のグルコース濃度の飽和が早くなり、細胞内へグルコースを取り込むことができなくなります。

結果的に、食後の血糖急上昇を緩和するタンク的な役割が失われます。

肝臓はグリコーゲンを分解してグルコースを放出する臓器でもありますが、グルコース放出は低インスリン濃度でも抑制されます。

糖尿病の人の肝臓も健康人と同じようにグルコースを取り込んではいるのですけれども、合成できるグリコーゲンの量が少なくて思うように先に進まず、血糖レベルが高くなる原因のひとつになっていると思われます。

筋肉および脂肪組織のグルコース取り込み

グルコース取り込みの流れ
  1. インスリンが受容体に結合
  2. インスリン受容体シグナル伝達
  3. GLUT4小胞(GSV; GLUT4 storage vesicles)を刺激
    • 小胞は細胞膜類似の膜に包まれた袋状の構造をしており、GLUT4小胞はその膜にGLUT4を内在
  4. GLUT4小胞輸送
    • 細胞質にあるGSVが細胞膜へトランスロケーション
  5. 細胞膜とGLUT4小胞が融合し、GLUT4が細胞膜に発現
  6. グルコースは、GLUT4を介して細胞膜を透過して細胞内へ
    • 肝臓におけるGLUT2と同様に受動輸送(促進拡散)

筋肉(骨格筋、心筋)や脂肪組織では、インスリン感受性の糖輸送担体(GLUT4)が細胞内のGLUT4小胞に貯蔵されており、インスリンに反応して細胞膜に発現します。

GLUT4小胞は、インスリンシグナルを受けて細胞骨格である微小管およびアクチンフィラメント上を移動する分子モーター、キネシンおよびミオシンにより細胞膜直下まで輸送され、細胞膜とGLUT4小胞が融合そしてGLUT4が細胞膜に発現し、グルコースは細胞内に輸送されます。

インスリン刺激によって細胞内に取り込まれたグルコースは、ヘキソキナーゼの触媒作用によりグルコース-6-リン酸になりますが、肝臓に存在するヘキソキナーゼ(=グルコキナーゼ)とは違ってKm値がおよそ0.1[mmol/L]であることから、細胞内のグルコース濃度が低くても反応速度は最大です。

ただし、グルコースの取り込みにも限度があり、グルコース-6-リン酸が過剰になってくるとヘキソキナーゼの活性部位以外のところにグルコース-6-リン酸が結合して酵素活性を低下させ、生成速度と利用速度のバランスが取れるよう調節されます。

インスリンシグナルがうまく伝達されないとなると、GLUT4発現およびグリコーゲンシンターゼ(グリコーゲン合成酵素)の活性が低下するので、グルコース取り込みがうまくいかなくなります。

効率良くグルコースを取り込める環境作り

体重65[kg]の筆者の血液量は、およそ4.74[L]です。ここで、75[g]のグルコースを水に溶かして飲み、経口糖負荷試験を行なったとします。

もし、75[g]のグルコースが一瞬のうちに血液中に流れ込んだとしたら、血糖値は1,582[mg/dl]に超急上昇してしまいます。

実際には、生命活動を維持するためにグルコースを代謝する多くの細胞が存在しますから、1,582[mg/dl]到達前に血糖値最大になると思われます。

血糖値が上昇し始めると、膵β細胞が反応してインスリンが急激に分泌され、肝臓の血液中への糖放出が停止すると同時に肝臓と骨格筋が協調して、血液中のグルコースをどんどん取り込むでしょう。

血糖値のピークがおよそ140[mg/dl]を超えないように、うまい具合に調節されている訳です。

さて、インスリンが分泌された時の各臓器におけるグルコース取り込み割合について、骨格筋が85[%]、脳が9[%]、肝臓が5[%]、脂肪組織が1[%]という報告があるようです。

骨格筋と肝臓で90[%]ですから、これらの臓器において効率良くグルコースを取り込めるようにすることが、血糖コントロールを良くする方法のひとつになります。

肝臓と骨格筋はインスリン標的臓器ですから、インスリンの効きを悪くする「もの」「こと」(インスリン抵抗性とかインスリン感受性と言われる)をできる限り減らしていく生活が血糖コントロールを良くすることに繋がると思われます。

筆者の未だ短い糖尿病生活の経験上ですけれども、次のような時に血糖レベルが上がっています。

  • 相対的に脂質が多い食事を摂っている時期
  • 慢性的な炎症が起こっている時期
  • 睡眠時間が短い時