肝臓のインスリン作用不足

食事由来のグルコースは、消化管から吸収されて門脈を通り肝臓で取り込まれ、取り込まれなかったグルコースは血管内を全身に運ばれます。

肝臓は、グルコースを取り込むだけでなく、グリコーゲン分解や糖新生でグルコースを生合成して、血液中に放出もします。

図1.グルコースの出現と消失:肝臓はグルコースの供給源でもあり、グルコースを貯蔵する臓器でもあります。

肝臓のグルコース放出は、インスリンがそれを抑制する方向で制御されているために、インスリンの作用が不足している状態では、グルコースが過剰に放出される、ということが起こります。

通常、脳は、途切れることなく常にグルコースを必要としているので、インスリンによる制御システムが破綻してもグルコースが供給され続けるメカニズムは、生命維持の観点から理にかなっていると考えられます。

肝臓におけるインスリンの生理作用
  • 糖新生 (グルコース放出) の抑制
  • グリコーゲン合成 (グルコース取り込み) 促進
  • グリコーゲン分解 (グルコース放出) 抑制

肝臓のグリコーゲン分解と糖新生

肝臓は、グリコーゲン分解と糖新生というグルコースの放出に係わる2つの異なる代謝系を持っています。

グリコーゲンとは?
  • 炭水化物(糖質)を消化・分解・吸収して得られる食事由来のグルコースの貯蔵形
  • 空腹時などのエネルギー需要に応えて、これを分解したグルコースを血中に放出

肝臓のグリコーゲン貯蔵量は多くなく、筋肉のグリコーゲンと合わせても約1日の絶食で消費してしまう程度です。したがって、肝臓は、常にグリコーゲンの分解と合成を繰り返し行なっています。

グリコーゲン合成

肝臓の糖輸送担体(GLUT2; glucose transporter 2)は、インスリン作用に依存しないでグルコースを取り込みますが、インスリンは、間接的にグルコースの取り込みを増加させます。

食後、血中のグルコースが増加すると、肝臓は、インスリンの作用により糖新生やグリコーゲン分解からのグルコース放出を速やかに停止します。

グルコースを取り込んだ肝臓は、インスリンによりグリコーゲン合成酵素が活性化されてグリコーゲン合成を促進します。

グルコースの放出が抑制され、かつグリコーゲン合成が促進された結果、食事由来のグルコースは、肝臓にグリコーゲンとして貯蔵されていきます。


なお、筋肉に蓄えられたグリコーゲンは、筋肉においてのみグリコーゲン分解後のグルコースが代謝され、血液中に放出されることはありません。

糖新生とは?
  • 肝細胞内に存在するアミノ酸やグリセロール、乳酸、ピルビン酸などを材料にしてグルコースを合成
  • 空腹時などのエネルギー需要に応えて、合成したグルコースを血中に放出

血液中のグルコースの約半分は、脳が消費すると言われます。

脳へのグルコース供給源
  • 飽食時 (1日3食きちんと摂れる状態) :主にグリコーゲン分解
  • 空腹時 (食事を長時間摂れない状態) や睡眠中:主に糖新生

食後の急激にグルコースが増えた時は、グルコース刺激によりインスリンの分泌が増加して肝臓のグリコーゲン分解および糖新生は速やかに抑制され、肝臓や筋肉はグルコースを取り込みます。

インスリンの分泌が低下、または効きが悪くなると、肝臓のグリコーゲン分解および糖新生は抑制されず、空腹時飽食時を問わずグルコース放出が続くようになり、これが高血糖を引き起こすメカニズムのひとつです。

肝臓に対するインスリン作用

食べ物からのグルコースの供給が途絶えても、脳や赤血球の活動を維持するためにはグルコースが必要ですので、肝臓は、糖新生とグリコーゲン分解からのグルコースを血液中に放出しなければなりません。

食後の急激にグルコースが増加した場合、血糖が急上昇しないように、インスリンによりグルコースの放出抑制および取り込み促進が調節されます。

また、血液中のグルコースが減少した場合、正常な血糖レベルを維持するように、インスリンによりグルコースの放出が調節されます。

結局、食後であろうと空腹時であろうと血糖値が高くなる要因は、

  • インスリン作用が不足しているから

と言えます。特に糖新生によるグルコース放出は、絶食が長期間続いた場合を考えると生命維持に欠かせません。

インスリンと同じ作用をするホルモンが他に無く、その作用が不調になったときは、生命維持の方向 (血糖上昇) に系が働くのは仕方がないことです。

インスリン作用の不足の程度は、膵β細胞のインスリン分泌量とインスリン作用が及ぶ臓器・組織のインスリン感受性との相対的な関係で決まります。

通常、ストレスを受けるとインスリン感受性は低下しますが、健常人は余裕のあるインスリン分泌能でそれをカバーし、正常血糖を維持します。

しかし、感染症や心筋梗塞、脳卒中などの強いストレスがあった場合は、健常人でも一過性の高血糖になることがあります。

このように、インスリン感受性の低下をインスリンの分泌量でカバーできなくなった時、インスリン作用は不足することになります。

インスリン分泌促進薬は、インスリン分泌を増強しますけれども、インスリンの効きが悪くなれば、その効果はいずれ無効になります。

インスリン感受性を低下させないためには、

筆者の経験上、注射のインスリン単位数は変わらないのに、HbA1cは、長い期間で見れば普通に±1[%]程度の変動がありますので、自分自身の生活態度が反映されているのかなと感じます。

  • 過食をしない
  • ストレスを溜めない
  • 身体を動かす
  • 睡眠を十分に取る……

などのなかなか実行できないことをやり続けることが答えだと思います。