糖尿病性の疲労の原因と回復方法

糖尿病になってから、予期せぬ疲労に襲われることが多くなりました。

普段は動かしていない身体を使った後や一気に仕事を片付けた後、インフルエンザの高熱が引いた後などに疲労または疲労感を感じますが、多くは一晩ぐっすり眠れば、あるいは美味しいものを食べたり好きな事をやって気分転換すれば解消したものです。

食後の高血糖になっているであろう時間帯に疲労が起こります。低血糖から回復させた後の急激な血糖上昇時にも起こります。

このときの疲労は、筆者が糖尿病発症時に経験した口渇、多飲、多尿そして体重減少の状態と似ていますので、エネルギー不足が原因ではないかと考えました。

疲労のメカニズムは不明ですけれども、高血糖とエネルギー不足の間には、酸化ストレスが存在していました。

筆者の糖尿病性疲労

筆者の疲労は、昼食後に最も多く起こります。次に夕食後、朝食後や食前には全く無いです。身体が苦しくて座っていることもできず、横になって休みたいという強い欲求に襲われます。

朝、目が覚めてなかなか布団から出ることができない、自動車の運転中などにすぐ眠くなる、常に疲れている、というような疲労とは異なるようです。

また、夕食後の低血糖が最も多く、その他の食前、食後には稀に起こります。朝食前と夕食前に食後高血糖を改善するセイブル®を服用していること、内因性インスリンの分泌が未だ有ることの2つが夕食後低血糖の誘因になっているかもしれません。

昼食後に疲労が起こったときの血糖値に、目立った傾向はありません。昼食後1時間くらいに疲労が来ますから、普通に高血糖です。ただ、朝食後や夕食後と比較すれば、血糖上昇の傾きが急峻だと思われます。

夕食後の疲労は、低血糖のグルコース補充後に高確率で来ますので、低血糖あるいは急激な血糖上昇が疲労と関係しているように感じます。低血糖が加わると多少回復に時間がかかりますが、どちらの疲労も2時間ほどで回復します。

筆者は、1型糖尿病発症時にも疲労を経験しています。緩徐進行性でしたので、いつからかは不明ですけれどもインスリン分泌能は低下していきました。口渇、多飲、多尿、そして、1年ほどで20[kg]の体重減少があり、飢餓状態に近かったと思います。

このときの疲労は、朝、目が覚めて起きようと思っているのになかなか布団から出ることができないもので、明らかに心の活動減退状態ではなく、ただ身体が動かないという身体の活動減退状態でした。

飢餓に近いと思われた状態の疲労と昼食後に経験する疲労は、良く似ていると感じました。ですから、糖尿病性疲労の原因のひとつはエネルギー不足、と考えても見当はずれなことではないでしょう。

糖尿病性疲労の原因

グルコースの骨格筋および脂肪組織の細胞への取り込みは、インスリンにより制御されており、全細胞の約6割がインスリンの作用を受けます。

インスリン作用の不足は、細胞のグルコース取り込みを低下させ、細胞内ではエネルギー源としてのグルコースが不足して、エネルギー需要を満たせない可能性があります。

糖尿病患者は、インスリン作用不足を軽減するため、食事療法や運動療法、これでも足りないときには薬物療法によって、代謝異常を改善しようと努力しています。

細胞は、治療を反映してグルコースを取り込みますので、不適切な食事療法(食事制限)を行なっていない限り、エネルギー供給が問題になることは少ないと思います。

問題は、エネルギー需要が増大する方向への変動を認識できないことです。それに合わせてエネルギー供給を増やす手段は、薬物と食事を増量することにより何とかなるでしょうが、タイミングが取れません。

こうなると、エネルギー需要が供給を上回ったままになり、疲労を感じて休息欲求が高まります。

  • 細胞が酸化ストレスを受けると、細胞レベルのエネルギー不足を引き起こす。
  • 細胞内高グルコース濃度は、酸化ストレスの元となるスーパーオキシドを過剰生成する。
  • 細胞外高血糖状態において、GLUT4を発現する細胞以外の細胞が細胞内高グルコース濃度になりやすい。

そのときの心身の状態や高血糖により細胞内高グルコース濃度になりやすい、という土台があり、スーパーオキシドの過剰生成による酸化ストレスで引き起こされる細胞レベルのエネルギー不足が誘因となって、疲労が起こると考えることができます。

酸化ストレス

細胞のエネルギー需要の増加、言い換えれば、細胞レベルのエネルギー不足を引き起こす原因のひとつとして、酸化ストレスが挙げられます。

酸化ストレス
生体の酸化作用と抗酸化作用の間で均衡が崩れた状態。
生体の酸化作用
  • 活性酸素種およびフリーラジカルの生成
  • フリーラジカルの酸化作用による生体損傷
生体の抗酸化作用
  • 抗酸化物質による活性酸素種およびフリーラジカルの除去
  • 生体損傷の修復
  • 均衡が酸化に傾くと、生体損傷で生じた障害による「兆候」が現れる。
  • 損傷の修復および障害の回復には、エネルギーが必要となる。

細胞の主なエネルギー産生「工場」は、ミトコンドリアという器官です。

ミトコンドリアの電子伝達系における酸化的リン酸化の過程で酸素分子O2が必要ですが、副産物として活性酸素種およびフリーラジカルが生成されてしまいます。

最初に生成される副産物は、スーパーオキシドO2・-というフリーラジカルです。

通常、有害な副産物は、抗酸化物質によって除去されるのですけれども、一部は生体に損傷を与えます。細胞は、損傷が大きくならないうちに修復を行ない、損傷と修復は普通に起こっていることです。

高血糖細胞の酸化ストレス

細胞内グルコース濃度が高くなっている細胞では、ミトコンドリアの電子伝達系へより多くの電子(NADHとFADH2)が供与された結果、プロトン濃度勾配による電気化学的ポテンシャルが臨界閾値に達し、途中で電子伝達が遮断されて電子を次々に漏れ出します。

漏れ出た電子が酸素分子O2を還元することにより、スーパーオキシドが通常より過剰に生成します。

グルコース代謝の概要

細胞外のグルコースは、細胞膜にあるグルコース輸送体(GLUT)によって細胞内へ取り込まれます。

取り込まれたグルコースは、酸素O2を利用すると最終的に二酸化炭素CO2と水H2Oにまで代謝され、大きなエネルギーをATPの形で産生することができます。

  1. グルコース, NAD+ → [解糖系] → ピルビン酸, NADH
    • この過程でATP産生

ピルビン酸とNADHは、ミトコンドリアに運ばれます。

  1. ピルビン酸, CoA(補酵素A)→ アセチルCoA, NADH, CO2
  2. アセチルCoA, NAD+, FAD → [TCA回路] → NADH, FADH2, CO2
    • この過程でGTP産生

解糖系、CoA化およびTCA回路で生成されたNADHとFADH2は、ミトコンドリアの電子伝達系に電子を供与し、この電子は最終的に酸素O2に渡され、プロトンH+と結合して水H2Oに還元されます。

電子伝達系を伝達する電子が持つエネルギーは、プロトン濃度勾配による電気化学的ポテンシャルに変換され、酸化的リン酸化によるATP合成に使われます。

  1. NADH, FADH2, O2 → [電子伝達系] → NAD+, FAD, H2O
    • 酸化的リン酸化によるATP産生

高血糖細胞の電子伝達系は、O2・-を過剰に生成するとともにATP産生率が低下します。

  • 4. ↑NADH, ↑FADH2, O2 → [電子伝達系] → ↑NAD+, ↑FAD, ↓H2O, ↑O2・-
    • 酸化的リン酸化による↓ATP産生
    • 脱共役タンパク質による電気化学的ポテンシャルの↑消費

スーパーオキシドが通常より過剰に生成したことにより、生体の酸化作用と抗酸化作用の均衡は酸化に傾き、酸化ストレスが生じます。

酸化ストレスは、ミトコンドリアや細胞の膜、DNA、タンパク質などを傷つけ、エネルギー産生が低下する上に修復のためのエネルギー需要が増します。

高血糖になりやすい細胞

ミトコンドリアからの過剰なスーパーオキシドの生成は、細胞内のグルコース濃度が高い状態で起こります。

糖尿病患者の血糖コントロールは、容易なことではありません。食後血糖などは出たとこ勝負みたいなものですし、風邪などのウィルス感染から炎症性の状態になると、インスリン感受性が低下するためか血糖レベルは高くなります。

糖尿病患者はインスリン作用が元々不足しているのですから、細胞外環境はどうしても高血糖の方向に変動しやすく、細胞は多くの時間、高血糖の浴槽に浸かっているような状態になりがちです。

細胞外と細胞内は細胞膜で隔てられており、細胞外のグルコースは、細胞膜に存在するグルコース輸送体(GLUT; glucose transporter)によって細胞内へ取り込まれます。

GLUT2は、食後のような急激にグルコースが血中に溢れる状態において、グルコース取り込みに力を発揮する輸送体です。肝臓や膵β細胞、腎尿細管、網膜、小腸などの細胞膜に見られます。

細胞外が高血糖になるにしたがって、輸送速度は上昇して輸送量は多くなり、それでもなかなか飽和しません。GLUT2発現細胞の細胞内グルコース濃度は、細胞外のグルコース濃度を反映する、と考えられます。

糖尿病性疲労からの回復

今まで述べてきたことを単純化すると、次のようになります。

  • 高血糖 → 酸化ストレス → エネルギー不足 → 疲労

結局、糖尿病性疲労から逃れる方法は、通常行なっている血糖コントロールに落ち着く訳ですけれども、HbA1c値が「優」レベルだからといって、体調が良いとは限りません。

食後の急峻高血糖が起きないように注意することが重要だと思います。

科学的エビデンスに基づいた「食後血糖値の管理に関するガイドライン」によると、食後血糖の管理に有効な治療法は、次の2つです。

また、通常の血糖レベルを連続して維持することは、酸化ストレスを被る機会を減らします。

夕食を19時、翌日の朝食を7時に摂るとすれば、8時間程度は通常の血糖レベルを得ることができ、この間は、酸化ストレスを心配する事無く細胞の修復とエネルギー産生ができると思います。要は、睡眠のことですね。しかし、睡眠中の無呼吸は、酸化ストレスを増やします。

低血糖にグルコース摂取で対処した後の急激な高血糖も、酸化ストレスを増やします。これについては、低血糖にならないようにするしかないので、食事の内容や運動量に注意します。

ゆっくり歩くような緩い運動も良いと思います。加齢とともに低下している代謝が、活性化するように感じます。