血糖コントロールと過剰なグルカゴン作用

ここ何年か、就寝前の高血糖が続いています。夕食後4時間経過後の血糖値の多くは、200から300[mg/dl]です。

夜間や早朝の低血糖が無く、朝食前には100[mg/dl]前後まで下がり、食事による上昇下降を経ながら夕食後に血糖上昇し、そのまま1日の最後には高血糖になっている、という感じです。

夕食後に有酸素運動を1時間ほど行えば血糖値は下がるとは思いますが、そこで落ち着くことはなく、一転上昇していきます。何かがずれているような気がします。

治療の主体がインスリン注射なので、「基礎インスリンの十分な作用が24時間持続していないのが理由だろう」と素直に思っているのですが、そこのところを深く見てみると、次のことも関係しているようです。

  1. 1. 外因性投与インスリンは、内因性分泌インスリンの動態を模倣できない
  2. 2. インスリンにより抑制されるべきグルカゴンの過剰な作用

血漿グルコース濃度

血漿グルコース濃度は、血液循環へのグルコース流入速度と血液循環からのグルコース除去速度で決まる関数として表すことができます。

図1.:血漿グルコース濃度は、グルコースの流入速度と除去速度のバランスによって決まります。

血液循環へ流入するグルコースのソースは、次の3つです。

  • 肝臓のグリコーゲン分解(空腹時)
  • 肝臓の糖新生(空腹時)
  • 消化管からの吸収(摂食時)

細胞のエネルギー源となるグルコースは、あらゆる組織で利用されます。その中には、グルコースを別の形に変換して貯蔵する組織もあります。

図2.血液循環におけるグルコースの3つのソース:肝臓のグリコーゲン分解、肝臓の糖新生、消化管からの吸収の3つがそのソースです。

肝臓がグリコーゲン分解および糖新生によるグルコースのソースでもあり(空腹時)、グリコーゲン合成によりグルコースを消失させる器官でもある(摂食時)ことは、着目すべき点です。

摂食時、ホルモンにより標的臓器を適切に制御して働かせなければ、グルコースの流入速度と除去速度のバランスが崩れ、結果として食後高血糖になると思われます。

インスリン動態

膵島β細胞から分泌されたインスリンは、門脈に放出されます。同時に、グルカゴンも放出されています。

門脈は、消化管、膵臓および脾臓からの静脈血が集合して肝臓へと注ぎ込むところの血管を指し、食事由来のグルコースや膵臓から分泌されたホルモン(インスリンやグルカゴン)は、門脈経由で最初に肝臓へ送られます。

図3.膵分泌インスリンの濃度分布:膵臓から分泌されたインスリンは、門脈に放出されて最初に肝臓を通過します。その後、肝静脈から心臓に行き全身を回ります。したがって、インスリン濃度は、膵島>肝臓>末梢の順に低くなっていきます。

肝臓を通過していったグルコースやインスリンは、血液循環に乗って全身を回ります。

健常人の肝臓は、末梢血液循環の約2倍から4倍のインスリン濃度に曝露しているのに対し、皮下注射のインスリン療法を行っている糖尿病患者の肝臓は、末梢血液循環と同じインスリン濃度に曝されています。(図3.参照)

さらに、内因性インスリンは、グルカゴン分泌に大きな影響を与えています。これらの分泌は相反し、インスリンはグルカゴンの効果を抑制しているように見えます。

外因性投与インスリンは、確かにインスリンの薬理学的代替ホルモン化合物であり、動物インスリンから遺伝子工学によるヒトインスリンアナログへと血糖コントロールを改善する機能を付与しながら進化してきました。

1型や膵β細胞の機能を失った重度の2型糖尿病にとって、インスリン補充療法が治療の基礎であることに変わりませんが、低血糖を起こさずに高血糖を抑制するという「ピンポイント」の血糖コントロールは、現在入手可能な基礎インスリンおよび追加ンスリン製剤を使って何とか辻褄を合わせた結果、とも言えます。

血糖コントロールが何をやってもうまくいかなくなった時、内因性インスリン分泌を模倣できていないことが表面化します。

インスリンとグルカゴンの相互作用

糖尿病に関わる代謝プロセスの多くがインスリンとグルカゴンの相互作用により制御されていることは、周知の事実です。そして、インスリンとグルカゴンの最初の標的になるであろう臓器は、肝臓です。

1型の患者は、インスリン分泌がほとんど無くグルカゴンが圧倒的に優位な代謝の結果、高血糖、ケトーシス、高トリグリセリド血症といった糖尿病の代謝異常が生じ、何もしなければケトアシドーシスを発症して死に至ります。

Banting と Best のノーベル賞につながる実験における糖尿病犬に投与された膵臓の粗抽出物の中には、インスリンとグルカゴン両方の成分が含まれていたであろうと思いますが、その後に抽出物はインスリンと名づけられ、患者(現在の1型)にインスリンを投与すると異常な代謝は改善し、以降インスリンは常に糖尿病の中心にありました。

現在のインスリン療法は、死を回避するためのインスリン補充ではなく、糖尿病特有の合併症と大血管障害を予防するための「ピンポイント」の血糖コントロールです。

グルカゴン分泌細胞の膵α細胞はそのままで、インスリン分泌細胞の膵β細胞が減少するということは、相対的にグルカゴン優位になるのではないかと考えられます。

グルカゴン優位を抑制するために比較的高濃度のインスリンを投与したい(図3.参照)けれども、末梢の骨格筋などでインスリン効果過剰(グルコース除去速度大)になるというジレンマが生じます。

インクレチンホルモンGLP-1

GLP-1(Glucagon-like peptide-1)は、プログルカゴン遺伝子の転写産物由来の消化管ホルモンで、グルコース依存的なインスリン分泌刺激作用およびグルカゴン分泌抑制作用があります。

2009年から2010年にかけて、GLP-1をターゲットにした2型糖尿病の治療薬が日本の市場に出ました。

インクレチン関連薬
  • DPP-4阻害薬
  • GLP-1受容体作動薬

DPP-4阻害薬は、GLP-1の分解酵素であるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)の働きを阻害してGLP-1の血中濃度を上昇させることにより、インスリン分泌を促進させる経口投与の薬剤です。

GLP-1受容体作動薬は、GLP-1受容体に結合して細胞内シグナルを活性化する化合物のことで、インスリン分泌を増強させる皮下注射の薬剤です。

インスリン分泌増強作用に期待して、インクレチン関連薬を次の患者

  1. 1. SU薬でインスリン分泌を刺激しても血糖コントロールが不十分だった患者
  2. 2. インスリン療法中でインスリン補充が十分だった患者

に投与したところ、血糖コントロールに対する効果が両者に見られました。

前者は、膵β細胞の機能障害あるいは細胞自体の減少が進んでいるものの、ある程度インスリンが分泌している患者で、後者は、内因性インスリンがほとんど無い患者だと思われます。

つまり、インスリン分泌が有っても無くても効果を示したことから、補助的作用と考えられてきたグルカゴン分泌抑制作用に注目が集まりました。

グルカゴン分泌

血糖の恒常性維持は、インスリンおよびグルカゴンの協調的相互作用によるものと言えます。

血糖=血漿グルコース濃度は、前述したように血液循環へのグルコース流入速度と血液循環からのグルコース除去速度で決まる関数で表されます。

グルコースが流入
  • 消化管
  • 肝臓(グリコーゲン分解および糖新生)
グルコースを除去
  • 肝臓(グリコーゲン合成など)
  • 骨格筋や脂肪組織など
  • 脳や赤血球など

空腹時や食後、運動時であっても血糖は正常域で維持されますが、各臓器のグルコース処理は状況によってダイナミックに変動しており、そのときのインスリンおよびグルカゴンの分泌がどうなっているのかは複雑です。

膵α細胞からのグルカゴン分泌メカニズムの詳細は不明なことが多いですが、おそらく膵β細胞からインスリンが分泌される状況において、膵β細胞から分泌される何らかの物質がグルカゴン分泌抑制を「指令」していると考えられます。

Insulin within islets is a physiologic glucagon release inhibitor.は、グルカゴン分泌が膵島内インスリンの生理的制御下にあるかどうかを判断するため、正常ラットから分離した膵臓にグルコース濃度100[mg/dl]の抗インスリン血清または非免疫血清を灌流した実験です。

結果は、抗インスリン血清を注入してインスリン作用が低下すると、グルカゴン値は急上昇を示しました。一方、非免疫血清を注入したインスリン正常値では、グルカゴン値はほとんど変化しませんでした。

以上のことからグルカゴン分泌をイメージすると、空腹時や食後、運動時などの多くの場合にグルカゴンは分泌する方向で反応しているが、膵β細胞がインスリンを分泌する状況の「大きさ」に応じてグルカゴンの分泌を抑え込んでいるように思えます。

なので、インスリンの抑えが効かなくなると、グルカゴンがピューッと「噴射」するようなイメージでしょうか。


グルカゴンの過剰な作用で血糖コントロールがうまくいっていないのかもしれないが、「まずはインスリン注射薬や血糖降下薬、運動などでインスリン作用を十分に確保して、話はそれからだ」ということですね。

しかし、インスリン分泌が残存していてインクレチン関連薬の効果が期待できるであろうと思われる筆者でも、メトグルコ®(メトホルミン)のように1型は適応外なので、「それから」の後にビクトーザ®などの選択肢は無いのです。