メトグルコ®の適応外使用

筆者は、2007年10月、糖尿病の診断と同時に教育入院となりました。

入院初日から毎食前3回のインスリン治療が始まり、4日目からは経口血糖降下薬メルビン®(現在のメトグルコ®)を食後に服用、5日目に「緩徐進行性1型です」と告げられました。

退院後は、基礎インスリンおよびα-グルコシダーゼ阻害薬の追加がありつつ、メトグルコ®の服用を続けていました。

そんな中、2014年2月の通院時、医師から「メトグルコ®の処方は中止します」と言われました。「メトグルコ®の適応症は2型糖尿病ですので、1型への処方は適応外使用であり、原則として自由診療(健康保険が適用されない)になる」という理由でした。

法律およびそれに基づく制度は遵守するべきですので、この説明は妥当だと思います。筆者としては、メルビン®を処方した医師(中止したのは別の医師)の判断に興味があります。まずは、医薬品の適応外使用から調べてみます。

医薬品の適応外使用

「適応外使用」とは?

薬事法による製造又は輸入の承認を受けている医薬品であって、当該医薬品が承認を受けている効能若しくは効果以外の効能若しくは効果を目的とした又は承認を受けている用法若しくは用量以外の用法若しくは用量を用いた医療における使用(以下「適応外使用」という。)が……

わかりやすく言い換えると、次のようになると思います。

  1. 承認されている効能・効果以外の目的で医薬品を使用すること。
  2. 医薬品を承認外の用法・用量で使用すること。

薬事法上の承認を受けている医薬品は、その添付文書に「効能・効果」を記載することができます。メトグルコ®は、下記のように謳っています。

ビグアナイド系経口血糖降下剤メトグルコ®錠の効能・効果

添付文書(pdf)より抜粋。

2型糖尿病。ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る。

  1. 食事療法・運動療法のみ。
  2. 食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用。

メトグルコ®の適応症は2型糖尿病ですので、筆者のような1型の患者への使用は「適応外使用」ということになります。

しかしながら、医薬品の成分の薬理作用は、薬事法上の承認を受けた適応症にのみ効能・効果を有するものでないことは明らかです。

欧米における処方状況や多くのエビデンス(科学的根拠)に基づいて、医師が患者の疾患や病態等を勘案し、医学的見地から個々の症例に応じて適切に判断した上で「適応外使用」を行う場合があるはずです。

同様に、適応症であっても使用すべきではない、と判断する場合もあるはずです。

1型糖尿病の薬物療法

1型は、インスリン療法が絶対的「適応」です。経口血糖降下薬は、α-グルコシダーゼ阻害薬を除き、「適応外使用」となっています。

2型同様な病態と考えられる場合、経口血糖降下薬の選択も有り得ると思われます。ただし、自由診療を選択してまで、そのメリットがあるかどうかです。

インスリン療法

1型の大部分は、インスリン依存状態にあるので、インスリンを投与しなければケトーシスから生命を危うくする状態に陥ります。ですから、1型に対してインスリン療法は、絶対的「適応」です。

1型の中の少数派、緩徐進行性のタイプは、進行が緩徐であるために糖尿病診断時点で未だインスリン依存状態に至っていないことがほとんどです。成因は1型でも、臨床所見上2型に似ています。

筆者の診断時の内容
  • 病型:1型(緩徐進行性)
  • インスリン分泌能:尿中C-ペプチド検査で代替すると、28.3[μg/day](半インスリン依存状態)
  • インスリン:食前3回注射
  • 内服薬:経口血糖降下薬メルビン®

診断した当時の医師によると、この程度の病態であれば「食事療法および運動療法と経口血糖降下薬を服用することにより血糖コントロールが可能」ということでしたが、「膵β細胞の温存効果が期待できる」ため、治療初期からインスリン療法が開始されました。

2型は、インスリン療法が相対的「適応」ですので、経口血糖降下薬との併用療法も可能です。

筆者の病態は2型同様と判断して、インスリン療法および経口血糖降下薬メルビン®の服用を選択した、と推測されます。

メルビン®との併用療法によりインスリンの減量が期待でき、インスリン量が少なければ、低血糖のリスクを小さくできます。また、作用機序からして、膵臓のβ細胞に負担となるものではないです。

経口血糖降下薬による治療

1型は、α-グルコシダーゼ阻害薬を除き、経口血糖降下薬の処方は「適応外使用」となります。

経口血糖降下薬
  • 食後高血糖改善薬
    • α-グルコシダーゼ阻害薬:炭水化物の吸収遅延(セイブル®、ベイスン®、グルコバイ®
  • インスリン抵抗性改善薬
    • ビグアナイド薬:肝臓における糖新生の抑制(メトグルコ®
    • チアゾリジン薬:骨格筋・肝臓におけるインスリン感受性の改善(アクトス®
  • インスリン分泌促進薬
    • DPP-4阻害薬:血糖依存性のインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制
    • スルホニル尿素薬:インスリン分泌の促進
    • 速効型インスリン分泌促進薬:より速やかなインスリン分泌の促進

1型の成因から、インスリン分泌促進薬は、服用しても意味の無い薬です。インスリン抵抗性改善薬は、病態が比較的進行していない時期であれば、効果が見込めるようです。


以上が、メルビン®を処方した医師の判断を推測したものです。また、処方中止の理由は、自由診療にしてまで服用するメリットが無いことだと推測します。

1型の中のさほど多くはない緩徐進行性1型で、さらにインスリン分泌能がある程度残存している患者が経口血糖降下薬メトグルコ®を処方される「適応外使用」は、稀な例だと思います。