糖尿病の定義と分類:発症機序と病期

脳卒中と脳梗塞、脳出血の違いを正確に言える人は、多くはいないと思います。糖尿病の認識も似たような状況なのではないでしょうか。

糖尿病は、血糖値が高くなる病気ですか?

いいえ、ちがいます。

  1. インスリンの分泌不全
  2. インスリン作用に対する抵抗性
  3. 上記1.と2.の両方

に起因する代謝異常が生じた結果、血糖値が高くなるのです。

  • 因:インスリン作用の不足(上記1.から3.)に起因する代謝異常
  • 果:慢性的な高血糖

インスリン作用の不足に起因する代謝異常が糖尿病の本質であり、その代謝異常の代表的特徴が高血糖です。そして、その代謝異常をとてもよく反映している指標が血糖値です。

血糖値が高いと、問題があるのですか?

高血糖を含む代謝異常が長期間続くと、

  • 神経
  • 腎臓
  • 心臓
  • 血管

といった臓器・組織に損傷や機能障害、機能不全が生じます。いわゆる、合併症です。

合併症は予防できますか?

インスリン作用の不足を軽減する治療を行なえば、代謝異常が改善して血糖値は正常域に近づきますので、この状態を維持するよう努めます。

  1. 食事療法
  2. 運動療法
  3. 薬物療法
糖尿病のまとめ
  • インスリン作用の不足に起因する代謝異常
  • この代謝異常は高血糖が特徴
  • 長期間の代謝異常で合併症が出現

糖尿病の自然経過

治療の介入無しに糖尿病が推移する経過は以下のとおりです。

自然経過
  1. 遺伝因子
  2. 環境因子
  3. トリガー
  4. インスリン作用の不足
  5. 代謝異常
    1. 高血糖:血中に過剰なグルコースが蓄積
    2. 高トリグリセリド血症:血中に過剰なリポタンパクが蓄積
    3. ケトーシス:血中に過剰なケトン体が蓄積
  6. 代謝疾患
    1. 急性代謝失調
      1. 糖尿病性ケトアシドーシス
      2. 高浸透圧性高血糖状態
    2. 慢性期合併症
      1. 特有の合併症
      2. 動脈硬化症

インスリン作用の不足→代謝異常→代謝疾患へのコースは、すべての糖尿病のロードマップに記載済みで、インスリン作用の不足を軽減することができなかった患者は、数年から十数年で駆け抜けます。

インスリン作用の不足へ至るルートは、単独あるいは複数の病原性プロセスが複雑に絡み合っていて、個々の患者で見れば高血糖の主因は何なのか不明瞭なことも多いです。

インスリン作用の不足

ここに至るルートは、次の3つのいずれかを通ります。

  1. インスリンの分泌不全
  2. インスリン作用に対する抵抗性
  3. 上記1.と2.の両方

インスリンとインスリンが作用する「標的臓器・組織」の相対的な関係に依存しますので、インスリン作用の不足を直接表す指標は特に無いですが、代替として、インスリン作用不足の程度を状態や病態で表しています。

  • インスリン作用の不足 → 代謝異常 → 高血糖

というように、初期のインスリン作用不足の状態から糖代謝異常の結果としての高血糖(空腹時血糖値や75[g]OGTT2時間値の上昇)が表れます。

そして、インスリン作用の不足が大きくなるに従って、糖代謝だけでなく脂質代謝やタンパク質代謝の異常も表れてきます。

図1.インスリン作用不足の程度:インスリン作用不足の程度は、糖尿病の前段階と言える「耐糖能異常あるいは空腹時血糖異常」、糖尿病の中では「インスリン不要」と「血糖コントロールのためにインスリン必要」と「生存のためにインスリン必要」の3つに分画しています。

糖尿病は、高血糖が見られるもののうち、慢性期合併症発症リスクを伴う代謝異常の程度に至ったもの、と捉えることができます。

インスリンの分泌がほとんど無い(インスリン作用不足が最大に近い)状態ではケトーシスが表れ、生命を危うくするケトアシドーシスに陥るので、生存のためにインスリン投与が絶対必要です。

糖尿病に至る基礎疾患プロセスから見れば、多くの患者に対してインスリン治療は不要ですが、血糖コントロールのためにインスリン注射が必要になる場合もあります。

糖尿病の代謝異常は高血糖と脂質異常とケトーシス

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血糖値は、血液循環へのグルコース流入速度と血液循環からのグルコース除去速度で決まる動的な値です。グルコース供給源である食事の腸管吸収と…

インスリン作用不足に至る機序

インスリンというホルモンがインスリン受容体を持つ標的細胞と結合し、インスリンシグナルが細胞内に伝わり、栄養素を体内に貯め込む方向の同化作用=インスリン作用の効果が表れます。

グルコースを例に挙げると、骨格筋や脂肪組織のグルコース取り込み促進やグリコーゲン合成の増加、糖新生の減少などで、インスリン側に問題があっても標的細胞側に問題があってもインスリン作用は不足します。

インスリンの供給不全

正常な代謝を維持するために必要なインスリンが分泌されず、供給が不完全な状態。

  1. 膵島β細胞の自己免疫性破壊などによる細胞量の減少
  2. 膵島β細胞のインスリン分泌機構の不全

インスリン需要量に対して、絶対的あるいは相対的な場合がある。

  • 絶対的供給不全:インスリンの供給能力が純粋に低下している場合
  • 相対的供給不全:過剰なインスリン需要量に供給が追いつかない場合
インスリン感受性の低下

インスリン標的細胞がインスリン作用の正常な反応をしない状態。インスリン抵抗性

  1. インスリン自体の異常によりインスリン受容体の親和性が低い
  2. インスリン受容体の発現数の減少
  3. 細胞内インスリンシグナルの阻害

インスリンの作用は、下記のような栄養素を体内に貯め込む方向の同化作用です。

  • 骨格筋や脂肪組織のグルコース取り込み促進
  • グリコーゲン合成の増加
  • 糖新生の減少
  • アミノ酸の取り込み促進
  • タンパク質分解の減少
  • 脂肪合成の増加
  • 脂肪酸エステル化の増加
  • 脂肪分解の減少……など

インスリン作用の不足のまとめ
  • インスリン分泌、あるいはインスリンに対する反応に問題有り
    • インスリンの供給不全:膵β細胞
    • インスリン感受性の低下:肝臓や骨格筋、脂肪組織の細胞

病態(病期)分類

病態(病期)は、インスリン作用の不足が現在どの程度にあるのかを表します。

図2.糖尿病の病態(病期):病態分類は、インスリン非依存状態の「インスリン不要」と「血糖コントロールのためにインスリン必要」、インスリン依存状態の「生存のためにインスリン必要」の3つ。

インスリン作用不足に至った機序が何であっても、生活習慣や環境、治療などでその時々の代謝異常の重症度は、進行したり退行したり、停留もするでしょう。あるいは、新たな機序によるインスリン作用不足が起こることも有りえます。

インスリン依存状態

インスリン依存状態になるようなインスリン作用不足に至る機序の多くは、膵β細胞の自己免疫性破壊からインスリンの絶対的欠乏に陥った場合です。

インスリン依存状態とは

インスリンを投与しないとケトーシスを来たし、生命に危険が及ぶような状態。

次のような代謝異常の症状が表れます。

  1. 著しい高血糖
  2. 高血糖症状(多尿・口渇・多飲、体重減少)
  3. ケトーシス
    • 脂肪およびタンパク質の分解が亢進して体内のケトン体が増加
  4. ケトアシドーシス
    • 著しいケトーシスにあり血液が酸性に傾いている状態
  5. 昏睡(生命の危険)

インスリン依存状態の病態は、以下の臨床的所見や

  • 尿中ケトン体陽性
  • 著しい高血糖
  • 高血糖性の症状(多尿・口渇・多飲)

インスリン分泌能の推定によっても判定できます。

  • 血中インスリン濃度(空腹時および糖負荷後、グルカゴン静注負荷後など)
  • 血中C-ペプチド
  • 尿中C-ペプチド
  • 24時間尿中C-ペプチド ≦ 20[μg/day] ⇒ インスリン依存状態にあると推定

24時間尿中C-ペプチドは、膵β細胞から1日で分泌されたインスリンの総量を反映しますので、1型と2型(あるいはMODY)の病型区別の手段として用いられます。

C-ペプチド低値かつ高血糖は1型糖尿病を示唆

膵β細胞からインスリン分泌時に放出される同じモル数のC-ペプチドは、インスリン分泌能を反映します。C-ペプチド低値かつ高血糖はインスリン欠…

基礎代謝を賄うのに十分なインスリン分泌能がある2型の多くは、インスリン依存状態になることは稀ですが、次のような事例が重なると生命維持のためにインスリン投与が必要になることもあります。

  • 重篤な感染症や外傷が合併した場合
  • SU剤2次無効による血糖コントロール不良によりケトアシドーシスに陥った場合
  • 清涼飲料水ケトーシスになった場合
  • 高浸透圧性高血糖状態(HHS; hyperosmolar hyperglycemic state)になった場合

インスリン非依存状態

多くの2型や一部の1型は、ここに分類されます。通常、インスリン治療の必要はありませんが、病態が進行して高血糖是正のためにインスリン注射が必要となる場合もあります。

  • 経口血糖降下剤を使用しても血糖コントロールの評価が「不可」の場合
  • 糖毒性を解消させる場合
  • 実は緩徐進行性の1型だった場合

膵β細胞の機能障害は、しばしば「膵β細胞の疲弊」という言葉で語られます。原因と機序は良くわかりませんが、何らかの機能障害によりインスリンの分泌が低下している状態です。

スルホニル尿素(SU)薬の二次無効(薬の効果が無くなること)は、機能障害の結果と考えられます。元々相対的なインスリン不足のところに、SU薬で膵β細胞を刺激してインスリンの合成・分泌を促進させようというのですから、長期間の服用や過剰な投与は、膵β細胞を疲弊させると思います。

このような患者の中には、後に抗GAD抗体を調べてみたところ陽性で、実はβ細胞の破壊が緩徐に進行していた1型だった、と判明する場合もあります。

高血糖状態により引き起こされる酸化ストレスも、膵β細胞の疲弊に関与していると考えられます。高血糖状態は、インスリン抵抗性を増悪させながら膵β細胞の機能障害を悪化させ、さらなる高血糖状態を引き起こします(糖毒性)。

成因(発症機序)分類

インスリン作用不足に至った機序は何なのか、という成因に基づいて、次のように病型分類されています。

成因分類
  1. 1型:膵臓のランゲルハンス島β細胞の自己免疫性破壊によるもの
  2. 2型:インスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)とインスリン分泌低下の両者が関与
  3. その他の特定の機序や疾患によるその他の型
    1. 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
    2. 他の疾患や病態に伴うもの
  4. 妊娠糖尿病

1型糖尿病

IA type:自己免疫性
自己免疫を基礎にした膵β細胞の破壊性病変によるインスリンの供給不全が生じて、インスリン作用不足に至るタイプ。発症初期に、自己免疫性膵β細胞破壊のマーカーとなる膵島関連自己抗体が高い割合で検出される。多くは膵β細胞の破壊が進行して、インスリンの絶対的欠乏に陥る。(インスリンがほとんど分泌されなくなる)
1型糖尿病の自己免疫マーカー

1型糖尿病の膵β細胞は、自己免疫プロセスが介在して破壊される、と考えられています。細胞性自己免疫を再現性良く測定することが困難なため、…

IB type:特発性
膵島関連自己抗体陰性のままインスリン依存状態に至る場合。

病因は未だに不明ですけれども、これまでの研究から、発症機序に自己免疫性のプロセスが介在しており、1型糖尿病は自己免疫疾患である、という認識で一致しています。

体内で普通に起こっている自己免疫が自己免疫疾患に至るには、複数の遺伝因子に何らかの誘引や環境因子が加わって起こると考えられています。バセドウ病やハシモト病、アジソン病、悪性貧血など他の自己免疫疾患を合併することも少なくありません。

自己免疫疾患と1型糖尿病

良性の自己免疫は、誰にでも普通にありますが、稀に、ある疾患を発症させるほどにまで進展する場合があります。この状態で発症した疾患は「自己…

以前は、インスリン依存性糖尿病(IDDM; insulin-dependent diabetes mellitus)、または若年発症性糖尿病と言われ、典型的には若年者が急激に発症するとされてきましたが、あらゆる年齢層で発症します。

発症・進行の様式により劇症、急性、緩徐進行性に分類され、これらに対応する自己抗体(インスリン自己抗体、抗GAD抗体、抗IA-2抗体)の出現パターンにある程度の傾向が見られます。

1型糖尿病に特徴的な膵島炎(リンパ球湿潤)

現在の1型糖尿病は自己免疫疾患であるという認識が確立していますが、その免疫学的研究の始まりは、1965年、糖尿病と診断されて数日以内に死…

2型糖尿病

原因がはっきりしている「その他の型」でもなく、自己免疫疾患の「1型」でもない、つまり残りの成因的には不均一な群が2型です。全患者の推定95[%]以上を占めます。

1つ1つの遺伝因子に限って見ればその影響は小さいでしょうが、複数の遺伝因子が関与すると影響は大きくなるだろう、という多因子遺伝が想定されています。

複数の遺伝因子と過食や運動不足、肥満などの環境因子の相互作用により、インスリンの相対的供給不全やインスリン感受性の低下が生じ、発症に至ります。膵β細胞の機能がある程度保たれていることから、通常、インスリン治療は不要です。

ほとんどは中高年以降に発症し、代謝異常の程度が軽度の時期に過食を止め、肥満を解消し、運動量を増やす、といった若い頃の生活習慣に戻すと、インスリン作用不足が改善される余地が多いです。

特定の原因によるその他の型の糖尿病

この型は、発症機序が特定されて原因が解明しています。遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものと、他の疾患や病態に伴う種々のものの2つの群に区別されます。

膵β細胞内で多くのプロセス(遺伝子発現)を経て、インスリンは分泌されます。インスリンにかかわる遺伝子異常は、成因機序に倣って次の2つに区別できます。

  • インスリン分泌調節機構に関わる遺伝子異常
  • インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常

どちらも、遺伝子異常による決定的な機能障害、前者であれば膵β細胞からのインスリンの供給不全、後者であればインスリン受容体が発現している細胞のインスリン感受性低下(高いインスリン抵抗性)をもたらします。

上記機構において重要な役割を果たすタンパク質、たとえばインスリンや細胞膜にあるチャネル、受容体、グルコース輸送担体、酵素などに直接的な異常あるいは影響を与えます。

「その他の型」の糖尿病は発症幾序が特定

環境因子とは無関係に、単一の遺伝子のみが糖尿病発症に関与する場合、遺伝形式はメンデルの法則に倣うので解析は比較的容易です。膵β細胞機能…

妊娠糖尿病

成因的には1型や2型の発症幾序がベースにあって、妊娠中という特別な状況下で初めて糖代謝異常が顕在化します。

妊娠中に胎盤から分泌されるホルモンは、インスリン抵抗性を強めます。通常は、インスリン分泌を多くして糖代謝を正常に保ちます。しかし、インスリン抵抗性に対してインスリン分泌が足りないと、糖代謝異常を来たすと考えられます。

胎盤は、分娩時に胎児のあとに後産され、インスリン抵抗性の要因となっていたホルモンが分泌されなくなるので、一般に、出産後に糖代謝異常は改善します。