1型糖尿病の自己免疫マーカー

1960年代中頃、若年発症性糖尿病患者の膵島に認められた特徴的なリンパ球湿潤(膵島炎)は、進行中の自己免疫性プロセスを示している可能性が示唆されました。

1970年代に入り、自己免疫性内分泌疾患および現在の1型糖尿病を併発している患者の血清に、膵島細胞抗体の存在が実証されると、自己免疫疾患としての糖尿病の認識は、さらに裏付けられました。

  • 細胞性自己免疫:膵島抗原を特異的に認識するT細胞の活性化
  • 体液性自己免疫:膵島細胞抗原と特異的に結合する(抗原そのままの形を認識する)自己抗体の出現

1型糖尿病は、細胞性自己免疫が膵β細胞の破壊を媒介すると考えられていますが、現状では、これを再現性良く測定することが極めて困難です。

そこで、体液性自己免疫応答である膵島細胞自己抗体の存在に「自己免疫プロセスを反映する指標」を求めました。

そして、指標を探索する過程において、合理的に正確かつ精密な自己抗体のアッセイが確立されていきました。

膵島細胞自己抗体

免疫系は、宿主自身を「自己」と認識して無視します。一方、「非自己」と認識した対象は、細胞性および液性免疫により徹底的に攻撃・排除されます。

また、宿主の脅威にならない物質に対しては、過剰な反応をしないよう「教育」されているのが正常である、と考えられています。

ところが、宿主自身を「非自己」と誤認識してしまうと、宿主自身が自己抗原となり、免疫系は「自己」を攻撃・排除します。

1型糖尿病の自己免疫性プロセス
  1. 細胞性免疫応答:膵β細胞破壊の主要な役割
  2. 体液性免疫応答:膵β細胞破壊の副産物的な自己抗体を産生
    • 自己抗体=膵β細胞攻撃マーカー

注意すべきは、膵島細胞抗原と特異的に結合する自己抗体が膵β細胞の破壊を媒介するものではない、という点です。

膵島細胞抗体

1950年代に自己抗体が発見されると、ハシモト病(慢性甲状腺炎、甲状腺にリンパ球湿潤が見られる)に抗甲状腺自己抗体が確認され、最初の組織特異的自己免疫疾患として同定されました。

直後には、アジソン病(慢性副腎皮質機能不全)にも副腎性自己抗体が発見されました。

当時、1型糖尿病も自己免疫疾患だろうと考えられていましたが、膵β細胞に対して反応する抗体を実証することができないでいました。

糸口は、1型の患者がハシモト病やアジソン病などの疾患特異的自己抗体を高い頻度で持っていることにありました。

これら自己免疫疾患を併発している患者群を研究して自己抗体の発見から遅れること十数年、ようやく1型糖尿病の最初の疾患特異的自己抗体となる膵島細胞抗体(ICAs; islet cell antibodies)が証明されたのでした。

後に、膵島細胞抗体は、新たに単独で発症した患者にも確認されました。

膵島細胞抗体のアッセイ(assay)は、以下の理由から再現性が悪く、標準化が困難でした。

  • 抗原として用いたヒト膵臓組織の品質に応じて結果が変化する。
  • 患者の血清中に存在する他の抗体(抗核抗体など)も認識してしまう。
  • オペレータによって結果に違いが出る。……など

間接免疫蛍光法により測定された膵島細胞抗体は、1型のマーカーとなるものの中で最も敏感です。

現在は、主に膵島で見つかった特定のタンパク質(図1.参照)を生化学的に定義した抗原に対する抗体(biochemical antibodies)のテストに置き換えられています。


自己抗体は、自己抗原を唯一に認識して結合することが可能です。

免疫沈降反応を利用して免疫複合体(抗原とその抗体および補体との結合物)を分離・精製することにより、1型の患者の血清中の免疫グロブリンが認識する膵島自己抗原を同定することが可能である、と論理的に考えられました。

そして、自己抗体に対するいくつかの特異的抗原が同定され、以下が主要な自己抗原です。

  • インスリン
  • グルタミン酸脱炭酸酵素65 (GAD65)
  • 膵島抗原2(IA-2)

図1.主な糖尿病関連自己抗原:インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素65(GAD65)、膵島抗原2(IA-2)および亜鉛輸送体8は、膵β細胞に存在します。

膵島細胞自己抗体の検査は、以下の自己抗原の標識付き組換えタンパク質に結合する抗体を測定しています。

標識付き組換えタンパク質+抗体
  • インスリン + インスリン自己抗体
  • グルタミン酸脱炭酸酵素65(GAD65)+ 抗GAD65抗体
  • 膵島抗原-2(IA-2)+ 抗IA-2抗体
  • 亜鉛輸送体8(ZnT8)+ 抗ZnT8抗体

インスリン自己抗体

インスリンは、同定された最初の糖尿病関連自己抗原です。

インスリン自己抗体とは?
インスリン自己抗体(IAAs; insulin autoantibodies)は、インスリンを投与されていない人の血清中に存在する抗インスリン抗体のこと。
インスリン抗体とは?
インスリン抗体(IAs; insulin antibodies)は、インスリン治療後すべての人に数週間以内に出現する、外因性インスリンに対する抗体のこと。

現在のアッセイは、インスリン自己抗体とインスリン抗体を区別することが困難ですので、インスリン自己抗体の評価は、インスリン治療が未だ始まっていない患者に対してのみ有効です。

インスリン自己抗体は、通常、1型糖尿病を発症する幼児に出現する最初の自己抗体です。

臨床症状が出る数年前から持続的に認められ、発症年齢が若いほどインスリン自己抗体陽性の頻度は高いです。

幼児の1型糖尿病を予測する上で、最も重要な自己抗体の一つと考えられていますけれども、現在のアッセイではかなりバラツキのある結果を生じるので、膵島細胞抗体アッセイと同様に標準化は難しくなっています。

GAD65自己抗体

グルタミン酸脱炭酸酵素65(GAD65; glutamic acid decarboxylase 65)は、同定された第二の糖尿病関連自己抗原です。

1980年代初頭、1型糖尿病患者の血清が64[kDa]膵島細胞タンパク質と免疫沈降することが示され、発症早期の1型の患者の多くがこの抗原に対する抗体を有することが報告されました。

これらの抗体は、発症数年前から一貫して認められ、自己免疫性疾患の発症リスクが高くなる第一度近親(遺伝子を半分共有する親子兄弟姉妹)でも確認されたことから、1型糖尿病を予測するマーカーとして期待されました。

スティッフマン症候群(SMS; stiff man syndrome)は、神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA; γ-aminobutyric acid)生合成に関与する酵素GADが自己免疫機序により減少し、GABA作動性ニューロンの障害を引き起こす、と考えられる自己免疫疾患です。

1型糖尿病や他の自己免疫性疾患の合併が多く、この患者の血清中にGAD自己抗体が存在することは、すでに実証されていました。

この事実をもとに、その後、1型とSMSの患者に共通する64[kDa]抗原は、GADであることが明らかにされ、1型の患者の血清と反応する64[kDa]膵島細胞抗原は、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)である、と同定されました。

抗GAD抗体は、新たに1型糖尿病と診断された患者の約70[%]で陽性を示します。また、診断後数年の間、抗GAD抗体陽性が持続することも多いです。

2型糖尿病患者の約5~10[%]程度は抗GAD抗体が陽性を示すといわれ、その中には当初は2型のような臨床像ですけれども、緩徐にインスリン分泌が低下して、最終的にインスリン依存状態に至る病型(実は緩徐進行性1型)が存在します。

日本では診断に際し、1型が疑われて自己免疫性か否かを判断するための抗GAD抗体検査は、保険適応になります。

IA-2自己抗体

1型糖尿病における第三の自己抗原となった膵島抗原-2(IA-2; islet antigen-2)は、1990年代初期の、64[kDa]膵島細胞膜タンパク質のトリプシン処理は、1型の患者の血清中の抗体と結合する抗原断片をリリースすることができるかどうか(pdf)の研究で発見されます。

以前に同定された64[kDa]膵島細胞抗原(GAD)からの50[KDa]断片と共に、GADとは別の64[kDa]膵島細胞抗原(pdf)からの40[kDa]および37[kDa]断片と1型の患者の血清が免疫沈降しました。

40[kDa]および37[kDa]断片に対する自己抗体反応性パターンは、50[KDa]断片のそれとは異なることが見出されました。

40[kDa]および37[kDa]断片の詳細ははっきりしませんでしたが、1型の患者の血清の90[%]以上で3種のトリプシン断片の少なくとも1つが免疫沈降したので、重要な抗原であると考えられました。

また、40[kDa]および37[kDa]断片は、GADアイソフォームの発現を欠いていたインスリノーマ細胞からの免疫沈降物をトリプシン処理後に検出されました。

その後、40[kDa]断片は、PTP(protein tyrosine phosphatase)様分子IA-2の細胞内ドメインがトリプシン処理により切断された326個(653-979a.a.)のアミノ酸分子断片(IA-2ic, intracellular IA-2)であることが判明し、37[kDa]断片はPTP様分子IA-2のアイソフォームIA-2βのものでした。

抗IA-2抗体の陽性率は、新たに1型糖尿病と診断された患者において約60[%]です。小児期または思春期に発症した患者で陽性率が高く、20歳以上で発症した患者の陽性率は低いことが知られています。

一方、2型の患者および非糖尿病のものの抗IA-2抗体の陽性率は、2.5[%]以下(0~2.5[%])です。

抗GAD抗体と同様に、診断後数年間は抗IA-2抗体陽性が持続することも多いですが、抗IA-2抗体は、抗GAD抗体より早期に陰性化しやすい傾向があります。

日本では診断に際し、1型糖尿病が疑われ自己免疫性か否かを判断するための抗GAD抗体検査が陰性となった30歳未満の者に対してのみ、抗IA-2抗体検査は保険適応になります。

ZnT8自己抗体

2007年、ZnT8に対する自己抗体が1型糖尿病患者の血清中に高い割合で検出されたことが報告され、亜鉛輸送体8(ZnT8; zinc transporter 8)は、新たな糖尿病関連自己抗原として同定されました。

まず、マイクロアレイプロファイリングという手法を用いて、膵臓および膵島細胞特異的に、そして豊富に発現している分子の中から自己抗原候補を抽出します。

次に、新規発症1型および前糖尿病のものの血清を使用した放射性免疫アッセイを用いて、自己抗原候補をスクリーニングしました。

このようにして見つけられたZnT8は、インスリン分泌顆粒膜に局在しているβ細胞特異的亜鉛輸送体で、6回の膜貫通ドメインおよびヒスチジンリッチループからなり、インスリンと亜鉛イオンが複合体を形成しています。

抗ZnT8抗体の陽性率は、新規発症の1型の患者が約60[%]程度、非糖尿病の対照群で2[%]以下、2型の患者で3[%]以下です。

また、幼少期発症より思春期以降発症の方が陽性率は高く、青年期後期にピークに達した以降は低下傾向です。