自己免疫疾患と1型糖尿病

免疫系は、自己と認識したもの以外のすべてのものを攻撃し、排除します。

免疫系の標的
  • 病原性のウイルス
  • 生物(バクテリア、菌類、原生動物、寄生虫)
  • 物質

多数の生物学的構造(タンパク質や細胞、組織、器官)およびプロセスが相互にかつ動的に連係して機能する免疫系は、複雑なシステムであるからか思わぬ問題(免疫異常)を引き起こすことがあります。

免疫異常
  • 免疫不全:免疫系に関わる要素の機能不全
  • 自己免疫自己を非自己と認識して、自己を攻撃する免疫応答
  • 過敏症:自己の組織に損傷を与える免疫応答

誰にでも普通に起こっている免疫異常ですが、その免疫応答が収束せずに行き過ぎてしまえば、「病気」の域に行ってしまいます。

1型糖尿病やバセドウ病、ハシモト病、アジソン病などの自己免疫疾患は、免疫応答が自己である宿主の組織や細胞に対してまで亢進している状態にあり、そうさせるトリガーは、遺伝因子と環境因子の相互作用にある、と考えられています。

自己免疫

免疫系は、自己(宿主自身の組織や細胞、成分)と非自己(病原体や宿主内に発生した異常な細胞)を区別して、抗原特異的な免疫応答により非自己と認識した抗原を的確に排除します。

残念な事に、自己と非自己の認識をしくじることもあるし、宿主の細胞や組織に対して攻撃することもあるし、これらは誰にでも普通に起こっている現象です。

このような、間違った免疫応答=自己免疫は、次の2点が認められると同時に、これが自己免疫の証明にもなります。

自己免疫の証明
  • 自己の抗原に対するT細胞の活性化
  • 自己の抗原に対する自己抗体の存在

自己の存在下における非自己の認識

免疫系の非自己の認識は、非自己そのものを認識するのではなく、

  • 非自己とは、自己が非自己化したもの

と認識します。

自己と非自己を区別するための目印は、細胞表面上に発現しているMHC分子です。MHC分子は抗原ペプチドと結合し、抗原提示します。

  • 自己:MHC分子が宿主由来の抗原ペプチドを提示
  • 非自己:MHC分子が宿主由来以外の抗原ペプチドを提示

非自己の抗原提示をしている細胞は、T細胞によって「自己が非自己化した」と認識され、免疫反応が引き起こされます。

特異的抗原を認識する分子としての抗体

T細胞は、宿主の細胞外に存在する外来性抗原(ウイルスや細菌、特定のタンパク質といった病原体)に対して、無反応です。

抗原提示されたMHC分子-抗原ペプチド複合体との結合によって、非自己化した自己を認識したとき、活性化します。

活性化したT細胞によりB細胞の活性が刺激されます。活性化したB細胞は、プラズマB細胞に分化・増殖し、抗体を大量に産生します。

抗体は、抗原提示したペプチド断片の元となった外来性抗原そのままの形を認識可能で、血漿やリンパ節を循環して、侵入した外来性抗原と結合する機能によって抗原排除に寄与します。

免疫寛容

免疫系は、自己と非自己を区別して、非自己と認識した抗原を攻撃・排除する仕組みであると同時に、自己に対する免疫応答(自己免疫)は、無反応でなければなりません。

そのための仕組みとして、まず、自己非自己を問わず、あらゆる抗原に対応できる体制を作ります。

T細胞やB細胞の抗原受容体の遺伝子再構成は、膨大な数の受容体型を用意することが可能です。

T細胞やB細胞の各々は、1種類の受容体型のみを発現し、用意できる膨大な種類の受容体型に呼応する数のクローンを生み出します。

この中で、自己に強く反応する受容体型を発現しているT細胞やB細胞は、直接的または間接的に自己を攻撃する可能性があります。これを防ぐ仕組みが次の二つです。

  • 中枢性免疫寛容:自己抗原と強く反応するT細胞およびB細胞の選別・除去
  • 末梢性免疫寛容:中枢性免疫寛容の仕組みから漏れたT細胞およびB細胞の自己抗原に対する不応答

何かをトリガーにして、免疫寛容が破綻の方向に進展することは、強い自己免疫を引き起こし、自己免疫疾患の発症原因のひとつと考えられます。

自己免疫疾患

自己免疫は、特殊な条件の下で起こると思われがちですが、いくらかは誰にでも普通に現れている現象で、通常は何の害も感じられないだけです。

自己免疫疾患の定義
  • 無害な自己免疫から、ある疾患を発症させるほどの自己免疫にまで進展した状態のとき、その疾患を自己免疫疾患という。

病原性の自己免疫に進展させるトリガーは、遺伝因子と環境因子の相互作用にある、と考えられています。

自己免疫疾患の証拠

自己免疫は、次の2つのうちどちらかを確認することにより証明されますが、これだけで自己免疫疾患の証拠とはなりません。

  • 自己の抗原に対する自己抗体
  • 自己の抗原に対するT細胞の免疫反応

自己免疫が病原性の免疫応答であることを証明する必要があります。

1型糖尿病が自己免疫疾患である証拠

1型糖尿病の発生機序に自己免疫性のプロセスが介在しているという状況証拠として、下記のことが挙げられます。

  • 他の自己免疫性疾患(バセドウ病やハシモト病、アジソン病、悪性貧血)との関連
  • 膵島のリンパ球湿潤と自己免疫性甲状腺炎で見られる病変との類似
  • 膵島成分に対する細胞性免疫および液性免疫の証明
  • 1型糖尿病の骨髄提供者から非糖尿病移植患者への受動的伝播の事後観察
  • 一卵性双生児間膵移植における1型糖尿病の再発
  • 免疫抑制療法による膵β細胞およびその機能の保存効果……など

1950年代に自己抗体が発見されると、免疫系は自分自身の組織を攻撃しない、という免疫学的定説の足元は揺らいでいきました。

自己抗体の発見により、組織特異的自己免疫疾患として認識された最初の病気となるハシモト病(慢性甲状腺炎、抗甲状腺自己抗体がマーカー)の同定につながりました。

直後に原因不明のアジソン病(慢性副腎皮質機能不全)の副腎性自己抗体が発見され、同時にアジソン病の甲状腺にハシモト病同様なリンパ球湿潤が見られたことから、両者には自己免疫的基盤があることを示唆するものでした。

自己免疫性疾患に1型(いわゆる若年発症インスリン依存性)糖尿病が重複発症、または互いに自己抗体が重複検出という知見があったにもかかわらず、1型糖尿病が自己免疫疾患と認識されたのは、ハシモト病がそれと同定されてから20数年後でした。

遅れた理由は、1型と2型(いわゆる成人発症インスリン非依存性)の区別が不明瞭だったこと、そして膵島関連自己抗体検出の困難さにあったようです。