1型糖尿病に特徴的な膵島炎(リンパ球湿潤)

1型糖尿病の病理組織学的定義は、膵臓のランゲルハンス島に限定される特徴的なリンパ球湿潤(=膵島炎; Insulitis)を付随するβ細胞塊の減少です。

しかし、膵島炎を確認できるほとんどは、若年発症性の初期段階においてです。

1965年、糖尿病と診断されて数日以内に死亡した小児の膵島にリンパ球湿潤が認められたという画期的発見以降、糖尿病の免疫学的研究が始まりました。

そして、自己抗体およびHLA(human leukocyte antigen)関連の同定や膵島炎との関係から、

という認識が確立していきました

膵島炎の文献記述がおよそ150例ほどと少ない理由は、膵臓の入手困難さから来ます。

多くは、糖尿病と診断後間もなくケトアシドーシスで亡くなった若年患者からの検体で、おそらく長期間の病理組織学的損傷プロセスの最終段階だけを示していると思われます。

膵島炎の特徴

膵島炎とは?

膵臓ランゲルハンス島内またはその周囲に見られるリンパ球湿潤のこと

  • リンパ球湿潤は免疫細胞の集積
  • 若年発症性1型糖尿病診断後1年以内の患者で見られる特徴的な病変

膵島炎を構成する細胞

1型糖尿病患者の膵島炎の細胞性浸潤成分を分析したところ、それは主にT細胞だったことがわかりました。

膵島のスライス断片試料を膵β細胞のインスリン反応陽性面積割合(これは膵β細胞機能の程度、推測としての膵β細胞破壊および再生の程度または過程に関連すると思われる)に従って層別化したとき、すべてのステージにおいてCD8+T細胞(細胞障害性T細胞)が支配的でした。

同時に、CD68+マクロファージ、CD20+B細胞、CD4+T細胞(ヘルパーT細胞)も検出されています。

CD8+T細胞の浸潤は、膵β細胞のインスリン反応陽性面積が小さくなるに従ってピークを迎え、インスリン反応が無く膵β細胞の機能が失われたと思われるとき、CD8+T細胞の浸潤はわずかに残り、それは急速に消滅したように見えます。

CD20+B細胞の浸潤もCD8+T細胞と同じようなパターンで、CD68+マクロファージはこれらとは対照的に、中程度の湿潤でピークが無くほぼ一定のパターンです。

浸潤性CD8+T細胞の抗原特異性

膵島の炎症性湿潤成分において支配的なCD8+T細胞は、何を抗原として認識するのか、四量体染色という方法を使ってCD8+T細胞の抗原特異性を分析した研究があります。

この研究は、CD8+T細胞が膵島に存在する何らかの抗原を認識して、攻撃・排除している様子を観察したものではありません。

予め数種類のMHC-抗原ペプチド複合体を用意しておき、その中からCD8+T細胞の受容体と親和性が高いものを選択するための処理を行い、親和性が高かったMHC-抗原ペプチド複合体のペプチドの元となるタンパク質が抗原だろう、と示したものです。

この分析結果は、これら浸潤性CD8+T細胞がいくつかの異なる自己抗原(下記参照)を認識することを示唆します。

  • インスリン
  • チロシンフォスファターゼ様タンパク質;IA-2
  • 膵島特異的グルコース-6-フォスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質;IGRP
  • プレプロインスリン
  • グルタミン酸脱炭酸酵素;GAD65
  • 膵島アミロイドポリペプチド前駆体タンパク質;ppIAPP

また、これらの特異性は、1型糖尿病患者の血中から検出される自己抗体との類似性が見られます。

それでも依然として、浸潤性CD8+T細胞は膵β細胞破壊の原因なのか、それとも膵β細胞破壊の結果なのか疑問が残ります。

膵島炎の出現率

膵島炎のメタ分析(独立した複数の研究データを統合的に再解析する手法)の結果、1型糖尿病の発症年齢が15歳未満の若年患者の膵島炎出現率は、罹患期間別に次のとおりです。

  • 罹患期間≦1ヶ月:73[%]
  • 1ヶ月<罹患期間≦1年:60[%]
  • 1年<罹患期間:4[%]

また、発症年齢が15歳以上40歳未満の患者の膵島炎出現率は、罹患期間別に次のとおりです。

  • 罹患期間≦1ヶ月:29[%]
  • 1ヶ月<罹患期間≦1年:28[%]
  • 1年<罹患期間:2[%]

膵島炎は、15歳未満の患者の急性期における特徴的病変のように見えます。

これが若年発症と成人発症の炎症性プロセスの違いからくるのか、試料のサンプリングの偏りなのか、それとも成人発症には膵島炎が表れない特殊な病態が多いのかはわかりません。

なお、多くはケトアシドーシスで亡くなった患者からの検体ですので、罹患期間は存命期間とほぼ等しいです。


膵島炎のリンパ球湿潤は自己免疫性の炎症と考えられますので、1型糖尿病自然発生ステージのどこかのステージで見られるはずです。

ただ、突然ケトアシドーシスを発症する劇症1型の患者の膵生検において膵島炎を認めた例はなく、劇症1型は自己免疫性ではないのか、それとも発症の進行が急激なために膵島炎が消滅した後だったのかは不明です。

膵臓ランゲルハンス島の病変の推移は、予防や治療のための多くの情報を与えてくれそうですが、侵襲的に検体を採取する必要があるために、ヒトのそれを見ることは非常に困難です。

最近では、膵島炎を非侵襲的に可視化する手法が開発されているようです。