糖尿病の定義とその説明

最初に、日本糖尿病学会の糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(pdf)から、糖尿病の概念を引用してみます。

糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する。代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく、動脈硬化症をも促進する。代謝異常の程度によって、無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す。

文体は平易ですが、用語の意味を理解しておかなければ全体が見えてこないと思うので、引用した概念に含まれている用語を発症から進展までの時系列に当て嵌めてみます。

「代謝異常」がキーワードになります。

糖尿病の自然経過
  1. 遺伝因子
  2. 環境因子
  3. トリガー
  4. インスリン作用の不足
  5. 代謝異常
    1. 高血糖:血中に過剰なグルコースが蓄積
    2. 高トリグリセリド血症:血中に過剰なリポタンパクが蓄積
    3. ケトーシス:血中に過剰なケトン体が蓄積
  6. 代謝疾患
    1. 急性代謝失調
      1. 糖尿病性ケトアシドーシス
      2. 高浸透圧性高血糖状態
    2. 慢性期合併症
      1. 糖尿病特有の合併症
      2. 動脈硬化症

治療をせずに代謝異常を長期間放置したら「合併症を発症してしまいますよ」ということです。

糖尿病の代謝異常
  • 高血糖は、インスリン作用の不足に起因する代謝異常を最も鋭敏に反映している。
  • インスリン作用不足を軽減すると代謝異常は改善し、血糖レベルは正常域に戻る。
  • 代謝異常の程度が軽度でも、長期間続けば慢性期合併症が出現する。

インスリン作用の不足

糖尿病は、インスリン分泌またはインスリン作用、あるいはその両方の異常に起因する高血糖によって特徴付けられる代謝疾患群です。

インスリン分泌の異常

インスリンの供給不全:正常な代謝を維持するために必要なインスリンの供給が不完全な状態。

  1. 膵島β細胞の自己免疫性破壊などによる細胞量の減少
  2. 膵島β細胞のインスリン分泌機構の不全

などで起こるが、インスリン需要量に対して絶対的な場合と相対的な場合がある。

  • 絶対的供給不全:インスリンの供給能力が純粋に低下している場合
  • 相対的供給不全:インスリン需要量が明らかに多くなっている場合

インスリン作用の異常

インスリン感受性の低下:細胞がインスリン作用の正常な反応をしない状態。インスリン抵抗性。

  1. インスリン自体の異常によりインスリン受容体の親和性が低い
  2. インスリン受容体の発現数の減少
  3. 細胞内インスリンシグナルの阻害

などで起こる。インスリンの作用は、栄養素を体内に貯め込む方向の同化作用です。

  • 骨格筋や脂肪組織のグルコース取り込み促進
  • グリコーゲン合成の増加
  • 糖新生の減少
  • アミノ酸の取り込み促進
  • タンパク質分解の減少
  • 脂肪合成の増加
  • 脂肪酸エステル化の増加
  • 脂肪分解の減少……など
インスリン作用の不足
  • インスリン分泌あるいはインスリン標的臓器(細胞)に問題有り
    • インスリンの供給不全:膵β細胞
    • インスリン感受性の低下(インスリン抵抗性):肝臓や骨格筋、脂肪組織

遺伝因子と環境因子

発症には、インスリン作用の不足を引き起こす幾つかの病原性プロセスが関与しています。

病原性プロセスの範囲
  1. 膵β細胞の自己免疫性破壊による絶対的インスリン欠乏 から
  2. インスリン標的臓器のインスリン感受性低下(インスリン抵抗性)まで

この中間範囲は、インスリン分泌機能障害や複数臓器のインスリン抵抗性、他のホルモンとの相互作用によるインスリン応答減少などの単独あるいは複数のプロセスが複雑に絡み合って、インスリン作用不足が引き起こされる。

  • どのプロセスが関与して、何が高血糖の主因なのか不明瞭なことも多い。

病原性プロセスの上流には遺伝因子と環境因子が存在し、両者が複数関与していると考えられます。遺伝因子の一部は、単一遺伝子異常が糖尿病の原因として同定されています

ほとんどは多因子遺伝のために解析が困難であり、関連性がわかっている程度です。

代謝異常

軽度の代謝異常ではほとんど症状が現れないので、血糖値やHbA1cの検査を行わなければ糖尿病の存在に気付きません。

図1.糖尿病の自然経過:インスリン作用の不足に応じて、血糖値は正常域から境界域へ、境界域から糖尿病域へと進展します。

血糖値が著しく高くなるような重度の代謝異常に至って漸く、口渇や多飲、多尿、体重減少といった自覚症状が現れます。

重度の代謝異常の最も極端な場合、意識障害や昏睡、死に至ることもあるケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態を発症します。

高血糖の程度
  • 病原性プロセスの程度に応じて、時間とともに変化する。
  • インスリン作用不足を軽減する治療により、改善する。
  • したがって、病原性プロセスの重症度を軽減する治療の結果を反映している。

病原性プロセスによる分類

病原性プロセスとは、言い換えれば病気の成因のことです。この分類には、「1型」「2型」「その他の型」「妊娠糖尿病」という用語を用います。

大部分は1型か2型のどちらかの病型に分類されますけれども、同じ病型内でも発症過程や代謝異常の程度は広範囲に分布します。

また、一人の患者が複数の病原性プロセスを持つことも有ります。

1型糖尿病

インスリン分泌の絶対的な不足:細胞性自己免疫が膵β細胞破壊を媒介した結果。

図2.1型糖尿病の自然経過:遺伝的素因を持つ人に何らかの環境がトリガー(誘引)となり、膵島に対する自己免疫が発動して進展する。膵島細胞自己抗体陽性反応が認められ、膵β細胞量の減少と共にインスリン分泌は減少する。多くは、インスリン分泌がほとんど無くなり、インスリン依存状態に至る。

  • 膵β細胞の免疫破壊のマーカー=膵島細胞自己抗体
    • インスリン自己抗体
    • GAD65(グルタミン酸脱炭酸酵素65)自己抗体
    • IA-2(膵島抗原-2)自己抗体
    • すべての1型患者が自己抗体陽性になる訳ではない(85~90[%]が陽性)。
  • 膵β細胞破壊の速度
    • 若年発症:急激ゆえに初発症状としてケトアシドーシスを呈することがある。
    • 成人発症:比較的遅く、長年にわたってケトアシドーシスを予防するのに十分な膵β細胞を残存していることが多い。
    • どちらも最終的には、わずかにインスリン分泌が有るか、全く無くなる。
  • 遺伝因子として、HLA(human leukocyte antigen)と強い関連がある。
  • 環境因子との関連は、よくわかっていない。
  • 他の自己免疫疾患を併発しやすい。

2型糖尿病

相対的インスリン欠乏:インスリン抵抗性に対する代償性インスリン分泌応答の組み合わせ。

図3.2型糖尿病の自然経過:インスリン分泌低下とインスリン抵抗性を来たす複数の遺伝因子に、肥満などの環境因子が加わり発症する。インスリン抵抗性に対して代償的にインスリン分泌を増やして正常グルコースレベルを維持するが、時間とともに膵β細胞機能は低下し、相対的インスリン欠乏が生じる。

1型、その他の型、妊娠糖尿病の病原性プロセスを否定した残りが2型なので、相対的インスリン欠乏の中身は様々です。

  • 多くの患者は肥満であり、肥満はインスリン抵抗性と関係がある。
  • インスリン分泌は、当初はインスリン抵抗性を補償するために増加するが、膵β細胞機能障害を起こし低下していく。
  • 非肥満の患者は、インスリン分泌低下が優位と思われる。
  • 膵β細胞機能がある程度保たれているので、生存のためにインスリン治療を必要としない。
  • インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子が関わっている、と想定されている。

その他の型の糖尿病

以下の2つの特定の原因による。

  • 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
  • 他の疾患、病態、条件に伴うもの

妊娠糖尿病

妊娠中に発症、または初めて認識された糖代謝異常。

代謝疾患

病原性の代謝異常が代謝疾患ですが、軽度の代謝異常でも代謝疾患に至る可能性があります。

急性代謝失調のケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態は、病原性プロセスの程度が重いほど(インスリン分泌がほとんど無い患者ほど)発症リスクは高いです。

けれども、インスリン作用不足を軽減する治療を継続して行うことでコントロール可能であり、発症したとしても適切な治療により回復できます。

長期間の代謝異常の持続

糖尿病特有の合併症:たとえ軽度の代謝異常でも長期間持続することにより、臓器の細小血管に機能・形態の異常を来す。

  • 神経障害:
    • 末梢神経障害は、足部潰瘍や切断、シャルコー関節のリスクを伴う。
    • 自律神経障害は、胃腸、泌尿生殖器、循環器の症状や性的機能不全の原因となる。
  • 網膜症:視力障害や失明
  • 腎症:腎不全

また、代謝異常は動脈硬化症を促進し、心血管(狭心症や心筋梗塞)、末梢動脈(下肢の閉塞性動脈硬化症など)、および脳血管(脳卒中)疾患の発生率は増加します。

糖尿病の合併症
  • 軽度の代謝異常で無症状だから、と治療をせずに長期間放置すれば、合併症が出現。
  • 糖尿病は、大血管障害である動脈硬化症の危険因子のひとつ。
  • 細小血管および大血管の合併症を発症しないように、生涯にわたり治療が必要。