糖尿病の兆候と症状:代謝異常に起因

すべての糖尿病に共通する特徴は、インスリン作用の不足に起因する代謝異常の結果、高血糖になることです。

  • インスリン作用の不足 → 代謝異常 → 高血糖
特徴的な兆候や症状はありますか?

ほとんど無いです。インスリン作用の不足が小さい時期から

  • 空腹時血糖値
  • HbA1c
  • 75[g]OGTT2時間値

の上昇が見られますので、毎年の健康診断で血糖検査を受けることが発見の手がかりになるはずです。

少し血糖値が高い程度で、問題があるのですか?

糖尿病の存在を自覚しないで、代謝異常が長期間放置されてしまうような場合、

  • 神経 → 感覚麻痺 → 潰瘍や壊疽
  • 眼 → 視力障害 → 失明
  • 腎臓 → 腎不全

といった臓器・組織の細小血管に損傷や機能障害、機能不全が生じます。いわゆる、糖尿病特有の合併症です。また、動脈硬化症を促進します。

  • 血管 → 動脈硬化症
    • 心臓 → 狭心症 → 心筋梗塞
    • 脳 → 脳卒中

糖尿病の代謝異常は、糖代謝だけではなく、脂質代謝やタンパク質代謝を含むほとんどすべての代謝系に異常を来たすもので、血中に様々な症状や合併症を引き起こす代謝産物を過剰に蓄積させます。

インスリン作用不足による代謝の変化
  1. グルコースの蓄積(高血糖)
  2. リポタンパクの蓄積(高トリグリセリド血症)
  3. ケトン体の蓄積(ケトーシス)

その代謝異常が原因で、特有の合併症や動脈硬化性合併症を呼び込んでしまうリスクを潜在的に持っているため、糖尿病は代謝疾患群と言われるのも納得です。

自覚症状は本当に無いのですか?

代謝異常の程度が著しい高血糖になって初めて、自覚症状が表れます。

  1. 口渇、多飲、多尿
  2. 体重減少
  3. ケトアシドーシスや高浸透圧性高血糖状態 → 意識障害 → 昏睡

これらは1型の発症エピソードでよく見られる症状で、代謝が一方向に亢進したときに表れます。治療により代謝が正常な方向に戻れば、合併症とは違って症状は消失します。

発症エピソード

糖尿病の本質は、インスリン作用の不足に起因する代謝異常であり、高血糖はすべてに共通する特徴です。そして、血糖値の上昇は、その代謝異常を反映する指標です。

図1.糖尿病の発症エピソードで見られる兆候や症状:最初に表れる代謝異常の兆候は、血糖値の上昇です。空腹時血糖値やHbA1cは検査しなければわかりませんので、健康診断や特定検診で見つかることが多いと思います。これを見逃すと、代謝異常の程度が相当悪化して著しい高血糖になるまで症状はほとんどありません。これらは、口渇、多飲、多尿といった典型的症状です。軽度の代謝異常の糖尿病でも、長期間放置すると網膜症などの合併症が表れることもあります。

多くを占める2型は、年1回の健康診断を欠かさず受診していれば、血糖値やHbA1c値の上昇から早期発見が可能なはずです。

1型は急速にインスリン分泌が失われますので、発症時、典型的症状やケトアシドーシスを呈することが多いと思います。

最初の兆候は健康診断から

2型の自然経過の多くは進行が遅いですので、健康診断や特定検診を毎年受けて(1番目の選択)いれば、

  • 空腹時血糖値
  • HbA1c(NGSP)

上記検査をもとにスクリーニングされて、

  1. 要受診 → 「糖尿病が強く疑われる」ので、医療機関を受診する。
  2. 要精検 → 「糖尿病の疑いが否定できない」ので、医療機関等で経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受ける。

この行動を「あなた」ができるかどうかが、2番目の選択です。

糖尿病の高リスク群(前糖尿病状態)

特定検診や健康診断で、空腹時血糖値が110から125[mg/dl]またはHbA1c(NGSP)が6.0から6.4[%]のものは、糖尿病の疑いが否定できな…

「前糖尿病」状態とは?

「前糖尿病」状態の血糖レベルは、正常よりは高いが糖尿病と診断されるほど高くはない。2型糖尿病の他に、動脈硬化による心血管疾患(心筋梗塞…

2番目の選択を拒否して、実は糖尿病だったのにこれを長期間放置した場合、特有の合併症のひとつ、網膜症を発症するリスクが高いです。目が霞む、見えにくいといった自覚症状が出たとしても、残念ながら自業自得です。

また、尿糖は、血糖値がおおよそ180[mg/dl]を越える時間が長くなると陽性になることが多く、健康診断当日の朝のような空腹時の検査で尿糖陽性だった場合、兆候のひとつかもしれないので経過観察になると思われます。

尿糖は糖尿病の発見につながる手がかり

尿糖陽性だからといって、短絡的に糖尿病と結びつけることはできません。腎臓の糖排泄閾値が通常より低い場合、正常血糖でも陽性になるからです…

典型的症状

インスリン作用不足に起因する代謝異常の程度が相当悪化して著しい高血糖状態になると、次のような自覚症状が表れてきます。

  • 口渇
  • 多飲
  • 多尿
  • 体重減少
多尿かつ尿糖陽性はほぼ糖尿病の典型的症状

糖尿病による多尿は、血中グルコースが原因物質である浸透圧利尿で、空腹時でも血糖値が250[mg/dl]を超える慢性的な高血糖状態を示唆します。…

これら症状が認められた時点で糖尿病がとても強く疑われるほど典型的な症状であり、加えて血糖値やHbA1cのひとつでも糖尿病型と判定されれば、診断確定できます。

ただ、進行が緩徐な場合だと、痛いとか苦しいという感覚が無いだけに意外と気付きにくいものです。

就寝中にも喉の渇きで目が覚めて、清涼飲料水をペットボトル1本分普通に飲んでしまったり、寝入った後、排尿のために1~2回以上起きなければならなかったら、典型的症状を疑います。

  1. 多尿:1日の尿量が2.5~3.0[L]以上
  2. 水分が失われて体内は脱水状態
  3. 血液が濃くなる(血漿浸透圧上昇)
  4. 中枢神経を刺激
  5. 口渇を感じる
  6. 口渇の結果、多飲
  7. 多尿の維持……以下ループ
筆者が経験した糖尿病の典型的症状

インスリン作用不足に起因する代謝異常による症状は、著しい高血糖状態にならないと表れません。尿糖としての糖排出に伴う多尿により脱水症状と…

糖尿病による多尿の原因は、インスリン作用不足に起因する代謝異常の結果、血液中にグルコースが過剰に蓄積したためです。

また、インスリン欠乏は、炭水化物から得られるグルコースをエネルギー源として利用できなくなる以外に、グルコースの一時的な貯蔵(グリコーゲン合成)や脂肪の合成・貯蔵もできなくなります。

これは、食べているのに食べていない飢餓状態と同じで、体が必要とする栄養素を摂食から賄うことができなくなって、自分の体を構成する脂肪およびタンパク質を分解・再合成して利用することになります。

その結果、脂肪や筋肉が溶けるがごとく体重が減少していきます。

糖尿病の代謝異常は高血糖と脂質異常とケトーシス

糖尿病に関わる代謝プロセスの多くは、インスリンとグルカゴンの相互作用により制御されています。グルカゴンに対してインスリンによる抑制が効…

糖尿病性ケトアシドーシス

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA; diabetic ketoacidosis)は、高血糖状態の下、ケトン体およびアシドーシスが同時発現していることが特徴で、患者の生命を危うくする潜在的な急性合併症です。

急激なインスリン欠乏でインスリン作用不足の程度は極端なインスリン依存状態に達し、糖尿病最悪の病態です。DKAの症候は、通常およそ24時間かけて短時間で進行します。

主症状は、高血糖状態が引き起こす典型的症状(多尿、口渇、多飲)に加えて、悪心と嘔吐を伴った激しい腹痛です。

軽症のDKAの状態では、意識障害が認められることはほとんどありません。重症のDKAにまで進行すると、錯乱や傾眠、あるいは昏迷、昏睡といった意識レベルの著明な低下が認められます。

糖尿病性ケトアシドーシス

糖尿病性ケトアシドーシスは、絶対的または相対的インスリン欠乏による高血糖状態下のケトン体およびアシドーシスの同時発現が特徴です。全身の…

治療中に見られる症状

インスリン作用の不足を軽減する治療は、

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法

この3つを組み合わせて血糖コントロールの自己管理を行いますが、インスリン作用不足の程度(病態)が重いほど難しくなると思います。

  1. Lvel 1. インスリン不要
  2. Lvel 2. 血糖コントロールのためにインスリン必要
  3. Lvel 3. 生存のためにインスリン必要

インスリン作用不足の程度が重い患者ほど、重篤な低血糖発症リスクも高血糖の極端な場合のDKAを発症する潜在的リスクも持っています。

どちらも危険な急性代謝失調であることに変わりはないのですが、DKAが高血糖の段階を踏んで至るのにくらべ、低血糖は穴に落ちるが如く急激に陥るので、より注意が必要です。

低血糖

低血糖とは血中グルコース濃度が正常レベルより低い状態のことで、その症状は血糖値が概ね60[mg/dl]以下で表れますが、その血糖閾値には個人差があります。

  • 血糖値が70[mg/dl]以下の場合(低血糖の典型的な症状が有っても無くても)

低血糖の症状は、血糖レベルが低くなるに応じて、概ね3段階で現れます。

血糖値が低下し始めると、インスリン分泌が減少してグルカゴン(膵α細胞で産生されるホルモン)分泌が増加します。グルコース利用は減少し、肝グリコーゲン分解によりグルコースが血中に放出され、血糖値は上昇して正常レベルに戻ります。

1. 初期症状
  • 空腹感、腹鳴、悪心、腹部不快感、頭痛

初期症状に気付かないでさらに血糖が低下すると、次にアドレナリンというインスリン拮抗ホルモンが分泌されて、血糖値を上昇させます。

自律神経系の遠心性(中枢神経系―脳と脊髄―から末梢の臓器や組織へ向かう)成分―副腎髄質、交感神経、副交感神経―は、血糖値の低下をトリガーとして活性化されますが、副腎髄質から分泌されるアドレナリンが増加します。

自律神経症状は、交感神経副腎応答における交感神経伝達物質(アドレナリンを含む)が末梢の臓器や組織に作用して引き起こされると考えられています。

2. 自律神経症状
  • 発汗、震え、動悸、不安感、温感、顔面蒼白、冷感、痺れ感

自律神経症状は、比較的軽度の低血糖(概ね血糖値が55[mg/dl]以下)で現れるため、重症低血糖に至る前の「警告症状」と捉えることができます。この警告症状が現れた段階で、適切に対処する必要があります。

通常、脳の神経細胞はグルコースのみをエネルギー源として利用しているため、グルコースの補充がないまま血糖が低下していくと、グルコース欠乏に起因する神経組織糖欠乏性の中枢神経症状が現れ始めます。

3. 中枢神経症状
  • 傾眠、脱力、めまい、疲労感、無感情、凝視、かすみ目、複視、混乱、記憶消失、意識朦朧、発話困難、不明瞭発語
  • 情緒不安定、易刺激性、不機嫌、抑うつなどの精神症状

さらに低血糖が進行すると(概ね血糖値が30[mg/dl])、痙攣、意識消失、麻痺、昏睡といった重度の低血糖症状が表れます。

糖尿病性の低血糖

低血糖のリスクは、2型よりインスリン分泌が枯渇した1型や高度に進行した2型が高い。それ故に低血糖に対する生理的防御を失い、低血糖発症頻…

低血糖を起こしやすい場合
  • 食事の量が少なかったとき
  • インスリン注射や経口血糖降下薬服用後、食事を始める時間が遅れたとき
  • インスリンや経口血糖降下薬の量を増やしたとき
  • 決まった時間以外にインスリン注射や経口血糖降下薬を服用したとき
  • 体を動かす量が多かったとき
  • インスリン注射や経口血糖降下薬服用後のインスリン効果が大きい時間帯に運動をしたとき
  • 飲酒

飲酒とはアルコール(=エタノール)を摂取することで、体内のエタノールは、主に肝臓で代謝されます。エタノール代謝は糖新生を抑制するので、血糖レベルは下がる方向に傾きます。

アルコール性低血糖

インスリン注射や経口血糖降下薬で治療中の糖尿病患者が空腹時つまみも食べずに長時間飲酒すると、アルコール性低血糖を起こす危険があります。…

疲労

健常人でも、眠い、疲労感が取れない、頭が重い、などの何となく体調が良くないという自覚症状のひとつやふたつ、あると思います。疲労は、糖尿病が原因である可能性があります。

疲労は、健康な人も糖尿病の人も誰にでも起こり、通常、休養や十分な睡眠を取れば解消します。しかし、血糖コントロールが悪くないにもかかわらず、長引く疲労により日常生活を困難にする場合もあります。

過度の肉体的活動、過度の精神的活動、疾病によって生じる疲労は、心身の活動能力や能率が減退している状態です。

疲労とは、どういう状態なのか?

疲労とは、過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた、心身の活動能力や能率の減退状態です。糖尿病患者は、血糖値が高くても何…

食事療法などはいかにも精神的ストレスを溜め込んでしまいそうですし、行き過ぎた食事療法は、個体レベルのエネルギー不足を招きます。また、酸化ストレスは、細胞レベルのエネルギー不足を生じさせます。

細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの不調が酸化ストレス発生の元で、高グルコース濃度の細胞外環境に曝された細胞は、酸化ストレスを受けやすいです。

血糖コントロールが良ければ酸化作用が抑えられて抗酸化作用も強化される、とならないのが難儀なところです。

糖尿病患者の疲労と酸化ストレス

糖尿病患者の多くが経験している「疲労(感)」の要因のひとつは、酸化ストレスによる細胞レベルのエネルギー不足ではないか、と言われています…

慢性期合併症

血糖値は、食事を取れば上昇し時間が経てば戻る、というような日内変動があります。日単位、月単位で見ても変動があります。

血糖自己測定を行なっている1型患者は、血糖値の変動を把握できますが、多くの2型患者は、クリニックにて行なう月単位のHbA1cおよび随時血糖の検査値によって、なんとなくわかったようなわからないような感じなのではないかと思います。

HbA1cは、過去1~2ヶ月の平均的な血糖レベルを反映する指標であり、血糖値の日内変動という「ノイズ」を見かけ上隠して、血糖状態が高いのか低いのか、そしてその状態が安定しているのか変動しているのか、4つの組み合わせで表現できるわかりやすい指標です。

HbA1cが「高い」+「安定」=慢性高血糖状態の持続 によって引き起こされる慢性期合併症は、どのくらいの期間続けば発症するのか、それは個々の患者に影響されますので何とも言えません。

そもそも、糖尿病と診断される血糖値は、慢性期合併症の発症リスクがある、さらに発症してからでは治療が困難になるので安全率も考慮して低目に設定されるべき、という妥当性から決められました。

HbA1cの血糖コントロール目標値も発症リスクから一律に設定されていましたが、個々の患者に合わせて設定するのが最近の流れのようです。

  • 治療に対する患者の意識
  • 患者は低血糖や治療薬の副作用に関連する潜在的リスクへ対処できるか
  • 罹病期間
  • 平均余命
  • 血管性合併症の進展の程度……など
患者は血糖コントロールの自己管理、臨床医は血糖管理

現状、糖尿病合併症を包括的にリスク管理できるエビデンスは無いです。「Patient-Centered Approach」の考えのもと、個々の患者に合わせて血…

そうであっても、合併症の発症リスク減少および進行抑制効果は、HbA1cの高く安定した状態を避ける方向に在ることに間違い無いです。