糖尿病性ケトアシドーシス

糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis; DKA)は、高血糖状態の下、ケトン体およびアシドーシスの同時発現を特徴とする、糖尿病患者にとって生命を危うくする潜在的な急性合併症です。

DKAを表す検査所見
  1. [D] 高血糖(≧250[mg/dl])
  2. [K] 高ケトン血症(β-ヒドロキシ酪酸の増加)
  3. [A] アシドーシス(pH<7.30、重炭酸イオンHCO3-<18[mEq/l])

インスリン作用不足に起因する代謝異常の程度が重くなるにつれて、糖代謝や脂質代謝、タンパク質代謝の異常の結果、血中に様々な代謝産物が過剰に蓄積していきます。

  1. グルコース(高血糖)
  2. リポタンパク(高トリグリセリド血症)
  3. ケトン体(高ケトン血症)

ケトン体(ケト酸)の過剰な蓄積は、血液が酸性に傾いたケトアシドーシスに陥ります。

DKAは、絶対的または相対的インスリン欠乏状態にあって、通常およそ24時間かけて短時間で進行する急性代謝失調です。

インスリン欠乏状態への誘因

インスリン分泌がほとんど無い1型糖尿病患者は、DKAに最も近い位置にいる。

  • 1型糖尿病の発症エピソード
  • インスリン自己注射を中断するなどのインスリン注射のマネージメントエラー
  • 急性感染症併発時
  • 外傷などの生理的ストレスによるインスリン拮抗ホルモン増加時

インスリン作用不足は極度のインスリン依存状態に達しており、高血糖に伴う多尿、口渇、多飲や倦怠感、さらに脱水や嘔吐、悪心および特徴的症状である腹痛が表れます。

重度の場合、精神錯乱や昏睡に進展して、適切な処置無しでは死に至る場合もあります。

兆候と症状

糖尿病性ケトアシドーシスの症候は、通常およそ24時間の経過で、インスリン作用の不足から欠乏へ、さらに欠乏の継続という状況と連動して表れます。

DKAの主症状

インスリン作用不足に起因する代謝異常の程度が相当悪化して、著しい高血糖状態で表れる症状。

  • 多尿
  • 口渇
  • 多飲
  • 体重減少

軽度のアシドーシスは無症候性で、より重症になると次のような症状が表れます。

  • 悪心
  • 嘔吐
  • 倦怠感
  • 激しい腹痛

重度のアシドーシスの場合、意識レベルの著明な低下が認められます。

  • 錯乱
  • 傾眠
  • 昏迷
  • 昏睡(治療が行われなければ死亡へと進行)

腹痛発症のメカニズムは解明されていませんが、高血糖とアシドーシスが麻痺性イレウスから腸管拡張を惹起し、さらに肝被膜の緊張が原因と考えられているようです。腹痛は広範囲で熱はなく、アシドーシスが解消されれば速やかに消失します。

高血糖と尿中へのケトン体排泄が浸透圧利尿による脱水を引き起こし、倦怠感や虚脱、低血圧からくるめまいを自覚するかもしれません。

昏睡時、ゆっくりとした深い呼吸(クスマウル呼吸)を認めることがあります。このような呼吸は、二酸化炭素CO2を排出して代償的にアシドーシスをアルカローシスで打ち消そうとする生理現象で、最初のうちは速く浅い呼吸(過換気)が見られます。

原因と誘引

糖尿病性ケトアシドーシスに至る原因は、「糖尿病性」とあることからわかるように、糖尿病のインスリン作用の不足に基づく代謝異常にあります。

DKAは、少なくとも基礎代謝に必要なインスリン需要を満たせなくなった時、インスリンの極端な欠乏とインスリン拮抗ホルモンの増加により、主に1型糖尿病で発症します。

1型の患者は、膵臓のランゲルハンス島β細胞が破壊されて既にインスリン分泌がほとんど、あるいは全く無いため、「インスリン欠乏」に最も近いからです。

図1.糖尿病性ケトアシドーシス成立幾序:糖尿病患者のケトアシドーシス発症幾序は、何らかの誘引によりインスリン欠乏を引き起こしてグルコース代謝異常に陥り、糖新生および脂肪酸代謝が亢進することからケトン生成が亢進してケトアシドーシスに至ります。

絶対的インスリン欠乏への誘引
  • インスリン自己注射の中断
  • インスリン注射デバイスの不具合……など
相対的インスリン欠乏への誘引

インスリン拮抗ホルモンが増加するような場合

  • 急性感染
    • 肺炎
    • インフルエンザ
    • 胃腸炎
    • 尿路感染症……など
  • 外傷
  • 生理的ストレス(心筋梗塞など)

典型的には、1型糖尿病患者が感染などから胃腸炎を発症し、吐き気や嘔吐などにより食事を摂ることができない状態で、インスリンを減量・中止するなどのインスリン注射のマネージメントエラー発生時に起こります。

2型糖尿病患者は、ある程度の膵β細胞インスリン分泌を保っているのでケトアシドーシスを発症することは稀ですが、以下の場合に起こることがあります。

  • 重篤な感染症や外傷を合併した場合
  • スルホニル尿素(SU)薬の2次無効による血糖コントロール不良を放置した場合
  • 糖質を多く含む清涼飲料水を大量摂取した場合

インスリン抵抗性の増悪や「膵β細胞の疲弊」、あるいは過度のグルコース負荷がもたらす膵β細胞の機能障害によって相対的インスリン欠乏になると考えられます。

DKAに至るメカニズム

糖尿病性ケトアシドーシスの病態は、インスリンの欠乏により糖やタンパク質、脂肪の代謝が一方向に過度に傾いて、ケトン生成が亢進しています。

特別な状況下のケトン生成
  1. 絶食時(長期間、食物から栄養を摂ることができない)
    • 代謝は制御されている。
    • ケトン体は、脳や筋肉などでエネルギー源として利用される。
  2. インスリン欠乏時
    • 代謝は乱れ、インスリンとインスリン拮抗ホルモンの協調作用が無い。
    • ケトン体が過剰に生成されて、血中に蓄積する。

既に高血糖状態の体の中では、高濃度の血中グルコースがケトン体と共に浸透圧利尿による多尿を引き起こし、体内の水分と電解質(ナトリウムやカリウムなど)が奪われて脱水状態となり、血液が濃く(血漿浸透圧上昇)なることにより中枢神経が刺激され口渇を感じる結果、多飲が起こります。

酸性物質であるケトン体が蓄積していくと血液は酸性(アシドーシス)に傾くため、体は血液の炭酸緩衝系により酸を除去してこの変化を止めようとしますが、ケトン生成が亢進している状況では、すぐに緩衝効果は失われます。

緩衝効果を復活、そして発揮させようと、血液中の二酸化炭素濃度を下げるための速く浅い呼吸(過換気)が行われます。これは、アシドーシスをアルカローシスで打ち消そうとする代償性呼吸性アルカローシスと言われる生理現象です。

上記の結果、電解質(ナトリウムやカリウム、塩化物、リン酸塩、マグネシウム、カルシウム)の著明な喪失に加えて、成人の患者では体重1[kg]あたり100[ml](およそ6リットル)の水分が全身から失われ、血糖値は通常250[mg/dl]を超えます。

インスリン欠乏状態における代謝

インスリンが欠乏した糖尿病の代謝は、インスリンシグナルが減衰した結果、一方向に過度に傾きます。

図3.インスリン欠乏状態の代謝:インスリン欠乏状態では、筋肉および脂肪組織のインスリン依存性GLUT4のグルコース取り込みが減少すると共に肝臓の糖新生が亢進した結果、高血糖になります。脂肪組織の脂肪が著しく分解され、血中に脂肪酸が放出されます。肝臓では、脂肪酸分解の亢進により処理能力以上のアセチルCoAが生成され、替わりの経路であるケトン体合成に回った結果、血中にケトン体が蓄積します。

グリコーゲン分解の亢進

肝臓のグリコーゲンは分解する方向に傾き、血中にグルコースを過剰に放出します。

糖新生の亢進

肝臓では、糖新生が亢進する方向に傾き、血中にグルコースを過剰に放出します。また、糖新生の材料となるアミノ酸やグリセロールも豊富に供給されます。

血中にグルコースが過剰に供給される一方、骨格筋や心筋、脂肪組織の細胞は、インスリン依存性にグルコースを取り込むことができなくなるため、グルコースは血中に滞ったままになり高血糖が維持されます。

タンパク質分解の亢進

タンパク質は分解する方向に傾くため、自分の体の筋肉は、分解されてアミノ酸になります。アミノ酸は、ピルビン酸やTCA回路の中間代謝物を経由してオキサロ酢酸となり、糖新生の材料として利用されます。

脂肪分解の亢進

脂肪は分解する方向に傾くため、脂肪組織に貯蔵されているトリアシルグリセロール(別名:中性脂肪、トリグリセリド)がグリセロール1分子と脂肪酸3分子に分解され、血中に遊離脂肪酸が過剰に蓄積します。

心臓や骨格筋、腎臓などでは、細胞に取り込まれた脂肪酸は二酸化炭素と水にまで完全酸化される過程において、そのエネルギーを利用してATPを産生します。脳は、血液脳関門を通過できない脂肪酸を利用することができません。

脂肪酸分解(β酸化)の亢進

肝臓には脂肪酸合成と脂肪酸分解(β酸化)の両方のプロセスが存在しますが、β酸化が亢進しているので、遊離脂肪酸を取り込んで次々とアセチルCoAを生成します。

しかし、脂肪酸分解が追いつかず、処理できない脂肪酸とグリセロールからトリアシルグリセロールを合成して、リポタンパクに詰め込んで血中に放出します。

ケトン体合成の亢進

肝臓にあふれたアセチルCoAは、TCA回路で酸化できればよいのですが、亢進している糖新生にオキサロ酢酸が使われて枯渇状態にあるのでうまく回りません。結局、肝臓の過剰なアセチルCoAは、ケトン体合成を亢進させます。

インスリン作用の不足に起因する代謝異常の詳細

糖尿病に関わる代謝プロセスの多くは、インスリンとグルカゴンの相互作用により制御されています。グルカゴンに対してインスリンによる抑制が効…

グルコースのインスリン依存性取り込みおよび利用

骨格筋や脂肪組織のインスリン感受性が低下して、血液中からグルコースを処理できる量が少なくなると、血糖コントロールは悪化します。薬物治療…

ケトン生成とケトン体

ケトン生成は、脂肪酸分解(β酸化)の最終産物であるアセチルCoAからケトン体が合成されるプロセスで、主に肝臓(他に腎臓)で行われます。

図4.ケトン生成経路:脂肪酸分解の亢進の結果、通常の代謝経路に載らなくなったアセチルCoAは、アセトアセチルCoAおよび3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAを経由して3種類のケトン体が生合成されるケトン生成経路で代謝されます。

ケトン体
  • アセト酢酸
    • 2分子のアセチルCoAから合成され、下の2つのケトン体の前駆体
  • アセトン
    • アセト酢酸から非酵素的に自然と脱炭酸化して産生
    • 他のケトン体とくらべ非常に少量
  • β-ヒドロキシ酪酸
    • 「ケトン体」と呼ばれているが、IUPACの命名法による化学的な意味合いでは非ケトン

適度なレベルのケトン体は普通に合成されているもので、多くの末梢組織で消費されます。

エネルギー源としてのケトン体
  • 特に心臓や骨格筋において、グルコースや脂肪酸より優先的にエネルギー源として速やかに消費される。
  • 通常、脳はグルコースのみをエネルギー源としているが、飢餓状態になると、その多くをケトン体に依存するよう遺伝子を発現して対応する。

脂肪酸は、水に溶けない疎水性の性質から、その血中運搬には輸送手段が必要です。遊離脂肪酸は、脂肪酸と血清アルブミンが結合したもので、この形でなら血中を循環できるようになります。

これに対し水溶性のケトン体は、そのままの状態で血中を末梢組織まで輸送されます。

末梢組織において、アセト酢酸およびβ-ヒドロキシ酪酸はアセチルCoAに再変換され、これをTCA回路で代謝して得られる電子伝達体NADHおよびFADH2のエネルギーを利用して、ATPを産生します。

図5.ケトン体からアセチルCoAへの再変換:3種類のケトン体のうち、アセト酢酸およびβ-ヒドロキシ酪酸は、アセトアセチルCoAを経由してアセチルCoAに戻ることが可能です。

アセトンは、アセチルCoAへ変換することができないので、尿中および呼気中に排出されます。呼気がしばしば「ケトン臭を呈する」と言われるのは、これが原因です。

ケトーシスとは?
ケトン生成が正常以上のレベルで起こって、体内のケトン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸)濃度が上昇している状態。
アシドーシスとは?
血液の酸塩基平衡を酸性側に傾かせる「力」が働いている状態。
ケトアシドーシス
ケト酸が血液のpH(水素イオン指数)を下げようとする作用をして、塩基平衡障害のひとつであるアシドーシスが起きている状態。

ケトン生成が起こるまでの流れ

通常、体の細胞のエネルギー源はグルコースと脂肪酸で、これらの供給が十分でない特別な条件下で追加的にケトン体を利用するようになります。

酸と塩基

ケトン体がなぜ「酸性」物質なのか、酸と塩基の定義を知れば納得すると思います。

Bronsted-Lowry(ブレンステッド・ローリー)の定義によると、酸と塩基は次のようなものです。

  • 酸は、H+(プロトン; 水素イオン)を供与する物質
  • 塩基は、H+を受け取る物質

水は、H2O同士でH+(水素イオン、実はH3O+)を授受してイオン化(自己解離)して、H2OとH+とOH-(水酸化物イオン)が平衡を保っています。

  • H2O ⇔ H+ + OH- …〈1〉

〈1〉式に化学平衡の法則を適用し、モル濃度を〔〕、平衡定数をKで表すと、〈2〉式になります。

  • {〔H+〕〔OH-〕/〔H2O〕}= K …〈2〉

ここで、〔H+〕〔OH-〕は、「水の自己解離定数」または「水のイオン積」といい、Kwで表します。

酸性、アルカリ性の定義

25℃、1気圧の下での純水の自己解離定数Kwの測定値は、

  • Kw = 1.008×10-14[(mol/l)2]

なので、次の状態を「中性」とします。

  • 〔H+〕=〔OH-〕= 1.0×10-7[mol/l] at 純水, 25℃, 1気圧

そこで、水溶液の性質を次のように定義します。

  • 酸性:〔H+〕> 1.0×10-7[mol/l]
  • 塩基性またはアルカリ性:〔H+〕< 1.0×10-7[mol/l]

たとえば、水素イオン濃度が 1.0×10-4[mol/l] などの中性より濃い場合の水溶液は「酸性」、1.0×10-10[mol/l] などの中性より薄い場合の水溶液は「塩基性またはアルカリ性」です。

水素イオン濃度指数pH

以上のような水溶液の性質を表す概念(理論)として、水素イオン濃度指数pHが提唱されました。ただし、〈3〉式が成立する実在系は限定的で、希薄水溶液の場合がほぼ一致します。

  • pH = - log10〔H+〕= log10{1 /〔H+〕} …〈3〉
    • 酸性:pH<7.0
    • 中性:pH=7.0
    • 塩基性またはアルカリ性:pH>7.0

ここで、ケトン体であるアセト酢酸およびβ-ヒドロキシ酪酸が中性の水を溶媒として、それぞれアセト酢酸水溶液およびβ-ヒドロキシ酪酸水溶液となっているとき、下記のようにH+を供与しているので、アセト酢酸およびβ-ヒドロキシ酪酸は「酸性」物質である、と言うことができます。

もちろん、H+濃度は濃くなりますから、それぞれの水溶液は酸性を示します。

  • CH3COCH2COOH(アセト酢酸) ⇔ H+(水素イオン)+ CH3COCH2COO-(アセト酢酸イオン)
  • CH3CHOHCH2COOH(β-ヒドロキシ酪酸) ⇔ H+(水素イオン)+ CH3CHOHCH2COO-(β-ヒドロキシ酪酸イオン)

酸塩基平衡

生命の明解な定義は未だ確立していませんけれども、生物が示すいくつかの特有な現象をもって生命と認められるようです。特に、代謝および再生産(増殖と生殖)は、生命の根本的活動と考えられています。

このような性質を持つ最小単位は細胞であり、細胞から構成される組織もまた生命です。

細胞内で行われる代謝などの生命活動は、細胞の外部環境(生体から見れば内部環境)から影響を受けるため、それを一定の状態に保つ恒常性(これも生命現象のひとつ)が働きます。

図6.血液と肺および腎臓による酸塩基平衡:細胞は、細胞膜によって生命活動を営む細胞内と外部環境を隔てています。細胞膜は、生命活動に必要な酸素や栄養は細胞内へ、生命活動によって産生された二酸化炭素や水素イオン、老廃物は細胞外へと選択的透過バリアとなっています。細胞膜の外側は細胞外液で満たされ、細胞外液と血液は連続した液相にあります。酸素は肺から血液を介して供給され、二酸化炭素は血液を介して肺から排出されます。水素イオンや老廃物も血液を介して腎臓から排出されます。

ゆえに、細胞の外側を満たしている細胞外液のpHは、内部環境を維持するためにほぼ一定を保つように働きます。H+濃度で言えば、0.4×10-7[mol/l]=40[nmol/l]で、具体的には、次のような非常に狭い範囲に調節されます。

  • 細胞外液のpH=7.40±0.05(H+濃度=36~45[nmol/l])

細胞外液の主成分は、血液が毛細血管壁から浸み出した間質液または組織液と呼ばれる液体です。主な成分は、水、脂肪酸、糖質、アミノ酸、無機塩類、ホルモンおよび神経伝達物質です。

血漿(血液から血球および血小板を除いたもの)の成分は、水、脂肪酸、糖質、アミノ酸、無機塩類、ホルモン、神経伝達物質およびタンパク質ですので、血漿が間質液の主成分と言うことができます。

細胞は、間質液を介して酸素や脂肪酸、糖質、アミノ酸などを受け取り代謝を行い、酸や代謝産物を産生します。

脂肪酸やグルコースは、完全に代謝されると最終産生物として二酸化炭素CO2(水に溶けて炭酸H2CO3という酸になる)が、中間産生物として乳酸やケトン体(ケト酸)が生じます。また、アミノ酸代謝からは、リン酸や硫酸が産生されます。

これらの酸性物質は、細胞から間質液へ移動し、間質液から血液へと拡散します。

恒常性がうまく働かなければ、血液のpH(血漿pH)は<7.40になるはずで、この状態はアシデミアです。反対にpH>7.40の状態は、アルカレミアです。

血液の炭酸緩衝系

そこで、細胞外液のpHつまり血液のpHを一定に維持するために、細胞が代謝によって産生した酸を除去する下記の仕組みが備わっています。

血液pHの恒常性維持
  • 血液の緩衝作用:酸は最初にこの緩衝系で調節されますが、これだけでpHを維持するには不完全です。
  • 肺による排出作用:代謝によって生じた二酸化炭素CO2は呼気として体外に排出されます。
  • 腎臓による排出作用:不揮発性酸の排泄および重炭酸イオンHCO3-の産生。

細胞は、血液(細かく言えば間質液)を介して水や電解質、酸などの物質交換を行っています。

肺および腎臓の細胞も、体内の他の細胞と同じように血液というプールの中に存在している連続した系です。

したがって、各機能が少しでも低下したら、内部環境を維持することが難しくなります。

その中でも酸の99[%]以上はCO2なので、血液の炭酸緩衝系および肺の二酸化炭素排出が重要です。

炭酸緩衝系の平衡式は〈4〉式のとおりで、

  • H+ + HCO3- ⇔ H2CO3 ⇔ H2O + CO2 …〈4〉

血液中にこれらがある濃度で溶けている訳ですが、炭酸H2CO3の濃度は溶解したCO2濃度およびHCO3-濃度に比して微量なので、〈5〉式で表すことができます。

  • H+ + HCO3- ⇔ H2O + CO2 …〈5〉

ここで、ケトン体合成の亢進により血中ケトン体(ケト酸)濃度が上昇し、水素イオンH+の負荷が増加している場合を考えます。

血中では、H+と重炭酸イオンHCO3-が結合して、H+濃度減少およびCO2濃度増加が起こります。これが炭酸緩衝系の緩衝作用です。

さらに、呼吸を促進させてCO2を大気へ積極的に排出(肺胞換気)すれば、とても大きな緩衝作用を発揮することができます。

炭酸飲料が入った口の狭いボトルより、口の広いボトルの方が短時間で「気が抜ける」ことと同じです。

  • H+ + HCO3-(腎臓で産生) → H2O + CO2(血中溶解)→ CO2(肺から大気へ排出)

血液へのCO2溶解には限度がありますから、代償的に呼吸が促進されるようになります。

最初のうちは、速く浅い呼吸(過換気)が生じます。過換気の最大形としては、昏睡時に見られるような空気飢餓感が特徴的な異常にゆっくりとした深い呼吸、いわゆるクスマウル呼吸が認められます。

また、ケトン生成により他のケトン体より量は少ないですがアセトンも産生するので、呼気にアセトン臭(またはケトン臭)、フルーティな匂いですけれども嫌な臭いが混じるかもしれません。

アシドーシスの呼吸性代償不全によりCO2が蓄積すると、頭痛や悪心、傾眠などの意識障害が認められるようになります。

アシドーシス

まずはアシドーシスとアシデミア、アルカローシスとアルカレミアの意味から。

アシドーシスとは?
血液(特に断りが無い限り通常は血漿)中の水素イオンH+濃度を増加させる、つまり血液の酸塩基平衡を酸性側に傾かせる「力」が働いている状態を言う。
アシデミアとは?
血液のpHが7.40未満になっている状態のこと。
アルカローシスとは?
血液中のH+濃度を減少させる何かが存在している状態のこと。
アルカレミアとは?
血液のpHが7.4より大きくなっている状態のこと。

アシドーシスとアルカローシスは同時に起こる場合も多く、相対的にどちらの存在が強いかによって、アシデミアにもアルカレミアにもなります。

血液の酸塩基平衡を酸性側に傾かせる「力」は、図6.や平衡式〈5〉を見ればわかるように、次の場合が考えられます。

  • 肺の呼吸に問題があって、二酸化炭素が蓄積してしまう場合(呼吸性アシドーシス)
  • 腎臓に問題があって、酸性物質が排泄されない場合
  • 代謝による過剰な酸性物質が血液中に蓄積してしまう場合(代謝性アシドーシス)

糖尿病性ケトアシドーシスは、代謝性アシドーシスに分類されます。

DKAの診断

尿糖および尿ケトン体が強陽性の場合、糖尿病性ケトアシドーシスが疑われます。高血糖、血中または尿中ケトン体およびアシドーシスが同時に存在すれば、糖尿病性ケトアシドーシスと診断がつきます。

また、アシドーシスの程度により軽度、中等度、重度の3つのステージに分類でき、重度の場合には昏迷や昏睡といった意識障害に至ります。

高血糖の存在

絶対的または相対的インスリン欠乏を特徴付けます。

  • 血糖値>250[mg/dl]
ケトン体の検出

インスリン欠乏による代謝異常(糖新生および脂肪酸分解の亢進)がもたらすケトン体合成の亢進の結果を示すものです。

  • 血中ケトン体≧3[mmol/l]
  • 尿中ケトン体:陽性(β-ヒドロキシ酪酸を検出しない試験紙もあり過小評価される場合がある)
アシドーシスの証明

酸性物質のケトン体が、血液の酸塩基平衡を酸性側にしようとする状態かどうかを総合的に見ます。()内は正常範囲値。

  1. 動脈血pH(7.40±0.05)
    • 軽度:7.25~7.30
    • 中等度:7.00~7.24
    • 重度:<7.00
  2. 重炭酸イオンHCO3-(24±2[mmol/l]or[mEq/l])
    • 軽度:15~18
    • 中等度:10~15
    • 重度:<10
  3. アニオンギャップ(12±2[mEq/l])
    • 軽度:>10
    • 中等度:>12
    • 重度:>12

血液ガス分析

血液ガス分析は、次の2つの値から体内の酸塩基平衡を間接的に知ることができる検査です。

  • 動脈の血液pH
  • 二酸化炭素分圧PCO2

血液pHからアシデミアかアルカレミアかがわかるので、 pH<7.35ならアシドーシスが疑われます。

また、酸の99[%]以上を占めるCO2の体内での動態(どのような状態でどの程度存在し、どのくらい体外へ排出されているか)を調べることにより、酸塩基平衡の異常がどこにあるかを絞り込むことができます。

糖尿病性ケトアシドーシス患者の場合

酸性側に傾いた血液の酸塩基平衡を正常に戻そうと、代償的に呼吸が促進され過換気になっているので、PCO2値は正常基準値より低い。

  • PCO2<40[mmHg]

後述の〈11-2〉式にpH値およびPCO2値を代入して得られる炭酸水素イオン(重炭酸イオン)HCO3-の値は、水素イオンH+とHCO3-が結合して酸を中和する方向に働くため、正常基準値より低い。

  • HCO3-<24[mmol/l]or[mEq/l]

酸性物質であるケトン体(アセト酢酸およびβ-ヒドロキシ酪酸)から解離したH+は、HCO3-と速やかに結合する一方、アセト酢酸イオンおよびβ-ヒドロキシ酪酸イオンは蓄積していくので、アニオンギャップ(AG)は増加する。

  • AG→増加
アシドーシスの証明

次の3つが確認されれば、アシドーシス単独の存在を証明できます。

  1. 血液pH → アシデミア
  2. 炭酸水素イオンHCO3- → 減少
  3. アニオンギャップ → 増加

酸塩基平衡障害は複数合併することも有り得るのですが、ここではその鑑別手法については略します。

二酸化炭素の化学種とその濃度

細胞は、代謝の最終産物として二酸化炭素CO2を産生します。

CO2は細胞外液に移動し、細胞外液の主成分は血液が毛細血管壁から浸み出した間質液または組織液と呼ばれる液体であり、そのほとんどは水なので、CO2は水に溶存している(大きく捉えれば血液中に溶けている)と言えます。

二酸化炭素は、常温常圧の下では気体状態にあるので、溶存二酸化炭素はやがて〈6-1〉式に示す気液平衡および〈6-2〉式から〈6-4〉式に示す水溶液中の化学平衡に達します。

ここで(g)は気体状態を、(aq)は水溶液内での水和状態を、(l)は液体状態を表します。

  1. CO2(g) ⇔ CO2(aq) …〈6-1〉:気相中の二酸化炭素と溶存二酸化炭素の間の平衡
  2. CO2(aq) + H2O(l) ⇔ H2CO3(aq) …〈6-2〉:溶存二酸化炭素と水が反応して炭酸を生成
  3. H2CO3(aq) ⇔ H+(aq) + HCO3-(aq) …〈6-3〉:炭酸から炭酸水素イオンの生成
  4. HCO3-(aq) ⇔ H+(aq) + CO32-(aq) …〈6-4〉:炭酸水素イオンの電離平衡、炭酸イオンの生成

結局、二酸化炭素CO2が水に溶けると水と反応し、水溶液中には溶存二酸化炭素CO2と炭酸H2CO3と炭酸水素イオンHCO3-と炭酸イオンCO32-という4種類の化学種が存在することになります。

〈6-1〉式が表すところは、肺の肺胞で行われている血液ガス交換です。

血液中に含まれるCO2が多い場合は、肺胞上皮の毛細血管側から肺胞腔内側へCO2が移動します。いわゆる、呼吸のうちの二酸化炭素の排出です。

さて、炭酸H2CO3の存在量は微量なので、CO2とH2CO3をひとつにまとめてCO2*と表記すると、〈6-1〉式から〈6-4〉式の化学平衡は以下のように表現できます。

  1. CO2(g) ⇔ CO2*(aq) …〈7-1〉
  2. CO2*(aq) + H2O(l) ⇔ H+(aq) + HCO3-(aq) …〈7-2〉
  3. HCO3-(aq) ⇔ H+(aq) + CO32-(aq) …〈7-3〉

〈7-1〉式から〈7-3〉式の化学平衡の平衡定数Kは、それぞれ次のように書くことができます。

ここで、〔〕はモル濃度を表します。〈7-1〉式は、気液平衡にあるのでヘンリーの法則が適用でき、KHはヘンリー定数です。

  • KH =〔CO2*(aq)〕/ PCO2 …〈8-1〉
  • K1’ = K1〔H2O(l)〕=〔H+(aq)〕×〔HCO3-(aq)〕/〔CO2*(aq)〕…〈8-2〉
  • K2 =〔H+(aq)〕〔CO32-(aq)〕/〔HCO3-(aq)〕…〈8-3〉

〈8-1〉式において、PCO2は二酸化炭素分圧のことです。

分圧とは?
  • 複数の気体から成る混合気体において、あるひとつの気体成分が混合気体と同じ体積を単独で占めたときの圧力のこと

たとえば、大気の成分は窒素や酸素、アルゴン、二酸化炭素などであり、大気を二酸化炭素単独で占めたときの圧力を二酸化炭素分圧と呼ぶ。

また、水に二酸化炭素が溶けているときの二酸化炭素分圧とは、水溶液と平衡状態にある気相中に存在する二酸化炭素の分圧のこと。

〈8-2〉式において、水の濃度〔H2O(l)〕は定数なので、まとめてK1’と表すことにします。

〈8-1〉式から〈8-3〉式を変形すると、水溶液中の二酸化炭素(および炭酸)と炭酸水素イオンと炭酸イオンの各濃度は、二酸化炭素分圧PCO2と水素イオン濃度〔H+(aq)〕の関数として表すことができます。

  • 〔CO2*(aq)〕= KHPCO2 …〈9-1〉
  • 〔HCO3-(aq)〕= K1’(〔CO2*(aq)〕/〔H+(aq)〕) = KHK1’(PCO2 /〔H+(aq)〕) …〈9-2〉
  • 〔CO32-(aq)〕= K2(〔HCO3-(aq)〕/〔H+(aq)〕) = KHK1K2{PCO2 / (〔H+(aq)〕)2} …〈9-3〉

pHと水素イオン濃度の関係〈3〉式 より 1/〔H+〕= 10pH なので、〈9-2〉式と〈9-3〉式は、次のように書くこともできます。

  • 〔HCO3-(aq)〕= KHK1’PCO210pH …〈9-2'〉
  • 〔CO32-(aq)〕= KHK1K2PCO2102pH …〈9-3'〉

二酸化炭素分圧PCO2が一定であれば、水溶液中の二酸化炭素(および炭酸)濃度〔CO2*〕は一定です。

炭酸水素イオン濃度〔HCO3-〕および炭酸イオン濃度〔CO32-〕は、水溶液のpHが酸性側に変化すれば(pHの値が小さくなれば)減小し、pHが塩基性側に変化すれば(pHの値が大きくなれば)増加します。

炭酸緩衝系のHenderson-Hasselbalchの式

〈9-2〉式をHenderson-Hasselbalchの式の形で表すと、次のようになります。

  • 〔H+(aq)〕= K1’{(KHPCO2) /〔HCO3-(aq)〕} …〈10-1〉
  • ∴ pH = pK1’+ log10{〔HCO3-(aq)〕/ (KHPCO2)} …〈10-2〉

ここで、上式を血液に溶けている二酸化炭素CO2に適用してみます。

37[℃]血清の平衡定数K1’および溶解係数KHは、それぞれ次のとおりです。

  • K1’=800[nmol/l]=8×10-7[mol/l]
  • KH=0.03

また、酸解離定数pK1’は、

  • pK1’=log10(1/K1’)=6.10

となるので、以下のように書くことができます。

  • 〔H+〕= 800×{(0.03×PCO2) /〔HCO3-〕} = 24×{PCO2 /〔HCO3-〕}[nmol/l] …〈11-1〉
  • pH = 6.10 + log10{〔HCO3-[mmol/l] / (0.03[mmol/l/mmHg]×PCO2[mmHg])} …〈11-2〉

動脈血pHが7.40の血漿の正常基準値は、次のとおりです。

  • 炭酸水素イオン濃度〔HCO3-〕= 24[mmol/l]
  • 二酸化炭素分圧PCO2=40[mmHg]

血液のpHは、〔HCO3-〕とPCO2の比で決定されるので、この比を変化させる因子が血液pHの恒常性を維持できなくさせます。

血液pHがアシデミア(pH<7.40)を示すときは、次のいずれかが認められます。

  • 〔HCO3-〕の低下(<24[mmol/l])
  • PCO2の上昇(>40[mmHg])

前者は代謝に、後者は呼吸に関係するところに原因があり、糖尿病性ケトアシドーシスの場合は代謝に原因があると考えられます。

  1. インスリン欠乏
  2. 代謝異常
  3. ケトン体合成の亢進
  4. ケトン体(酸性物質)の蓄積
  5. 呼吸促進による酸排出<ケトン体による酸産生
  6. 代謝性ケトアシドーシス

酸性物質から解離したH+とHCO3-が結合してCO2(aq)を生成する反応が進むため、腎臓のH+分泌によりHCO3-が補充されているにもかかわらず、HCO3-は消費されていきます。

炭酸緩衝系の緩衝作用

血液が持つ緩衝系が炭酸緩衝系のみで、時間の概念を無視すると仮定したとき、下記血液条件の患者の緩衝作用を考えます。

  • 〔H+〕= 40[nmol/l](pH=7.40)
  • 〔HCO3-〕= 24[mmol/l](正常基準値)
  • PCO2 = 40[mmHg](正常基準値)を維持
  • 〔CO2*(aq)〕= 0.03×40 = 1.2[mmol/l]

この患者の血液に塩化水素HClをx[mmol/l]加え、水素イオン濃度〔H+〕が80[nmol/l](pH=7.10)になるとします。

HClは強酸なので、血液中において全てH+とCl-に電離したとみなすことができます。

電離したx[mmol/l]のH+は、HCO3-と結合して〈7-2〉式において左側に反応が進み、x[mmol/l]のHCO3-減少およびx[mmol/l]のCO2*(aq)増加が起こります。

〈11-1〉式を使って、加えたHClを求めると次のようになります。

  • 80[nmol/l] = 800[nmol/l]×{(1.2[mmol/l]+x) / (24[mmol/l]-x)}
    ∴ x = 1.1[mmol/l]

これの意味するところは、HClを加えてH+が1.1[mmol/l]負荷されたにもかかわらず、〔H+〕は40[nmol/l]から80[nmol/l]へと40[nmol/l]しか増えておらず、27,500倍の緩衝効果があったと考えられることです。

また、〔CO2*(aq)〕は1.1[mmol/l]増加して2.3[mmol/l]になり、PCO2に換算すれば2.3[mmol/l] / 0.03=77[mmHg]です。

前述の血液条件のPCO2=40[mmHg]を維持するため、呼吸が促進されることにより肺胞換気を増加させ、〈7-1〉式において反応を左側に進ませます。

結局、増加したCO2*(aq)1.1[mmol/l]分は、CO2(g)として大気中に排出されます。

呼気としてCO2を排出した分を含めてH+負荷を見積もると、肺胞換気によりPCO2=40[mmHg]を維持するため〔CO2*(aq)〕は1.2[mmol/l]となり、下記のとおり12[mmol/l]のH+負荷を緩衝可能(300,000倍の緩衝効果)と言えます。

  • 80[nmol/l] = 800[nmol/l]×{1.2[mmol/l] / (24[mmol/l]-x)}
    ∴ x = 12[mmol/l]

過換気になればさらに大きな緩衝効果が期待でき、血液の炭酸緩衝系にとって、呼吸機能(肺胞換気によるPCO2の調節)は重要な役割を果たしています。

アニオンギャップ

アニオン(anion)とは陰イオンのことで、代謝性アシドーシスの存在を確認する時にアニオンギャップを計算で求めます。

アニオンギャップ(AG)とは?

血清または血漿において測定された陽イオンである〔Na+〕と陰イオンである〔Cl-〕および〔HCO3-〕の差を意味する。

図7.アニオンギャップの概念:酸塩基平衡の調整を主に担っている陽イオンのナトリウムイオンと陰イオンのクロールイオンおよび炭酸水素イオンの差=アニオンギャップを見ることにより、体内の有機酸の動向を推測することができる。

〔Na+〕や〔Cl-〕は、通常の血液検査から容易にその測定値を得る事ができます。

〔HCO3-〕の値は、血液ガス分析の検査結果を〈11-2〉式に代入して得られます。

一方、図7.における斜線で表された部分は、通常は測定されない陽イオン〔not-measured+〕および陰イオン〔not-measured-〕で、代謝性アシドーシスでは〔not-measured-〕に含まれる有機酸イオンが増加している場合があります。

アニオンギャップ計算の意義は、容易に測定可能な〔Na+〕,〔Cl-〕,〔HCO3-〕を使用して、通常は測定されない陽イオンおよび陰イオンの異常を推測し、有機酸イオンの増加の程度をおおまかに把握できることです。

人間の身体は電気的に中性のため、体液中の陽イオン価数と陰イオン価数は等しく、細胞外液は血管内(血漿)から血管外(間質液)まで連続した液相なので、血漿の陽イオンと陰イオンも等量であるとみなせば、以下の関係にあると言えます。

  • 〔Na+〕+〔not-measured+〕=〔Cl-〕+〔HCO3-〕+〔not-measured-
  • 〔not-measured-〕-〔not-measured+〕=〔Na+〕- {〔Cl-〕+〔HCO3-〕}
  • ∴ AG =〔Na+〕- {〔Cl-〕+〔HCO3-〕}[mEq/l] …〈12〉

血液pHがアシデミア(pH<7.40)を示し、〔HCO3-〕が正常基準値より低下(<24[mmol/l])している場合、代謝性アシドーシスの存在が考えられます。

ここでAGを計算し、AGが増加(>12[mEq/l])しているならば〔not-measured-〕を構成しているアルブミン、有機酸イオン、リン酸イオンHPO42-、硫酸イオンSO42-のうち有機酸イオンが増加していると推測できます。

ケトン体(ケト酸)であるアセト酢酸(CH3COCH2COOH)およびβ-ヒドロキシ酪酸(CH3CHOHCH2COOH)は、有機化合物の酸=有機酸であり、カルボキシル基(-COOH)を持ちます。

血液中においては、ある一定の割合で水素イオンH+と有機酸イオン-COO-に解離しており、ケトン体で言えば、アセト酢酸イオンCH3COCH2COO-とβ-ヒドロキシ酪酸イオンCH3CHOHCH2COO-になります。

血液pHを一定に維持するため、主に炭酸緩衝系および肺の二酸化炭素排出によりH+は速やかに体外に排出され(HCO3-と結合してCO2とH2Oになる)、結果的に有機酸イオン(陰イオン)が増加します。

アニオンギャップの増加が認められれば、これだけで代謝性アシドーシスが存在すると言えます。